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作業療法
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精神科作業療法における看護師の役割【作業療法士が期待すること】

京極真
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本記事では「精神病院で働く看護師です。精神科作業療法における看護師の役割について知りたいです。作業療法士が期待する精神科作業療法における看護師の役割をわかりやすく解説してもらえますか」という疑問にお答えします。

本記事の内容
  • 精神科作業療法における看護師の役割
  • 看護師のための精神科作業療法の留意点
  • 看護師が精神科作業療法を学べるおすすめの本【厳選3冊】

精神科作業療法における看護師の役割

作業療法士のぼくが考える精神科作業療法における看護師の役割は以下の通りです。

精神科作業療法における看護師の役割
  • その①:多職種連携のハブとして機能する
  • その②:作業療法士と連携して、病棟でもクライエントの生活行為の改善に取り組む
  • その③:病棟と作業療法室とのクライエントの状態の違いを把握して、看護ケアに役立たせる
  • その④:作業療法プログラムに参加し、クライエントと看護師の信頼関係の構築に活かす

他にもいろいろありますが、本記事では主にこの4点について解説します。

その①:多職種連携のハブとして機能する

看護師は作業療法士に比べてクライエントに関わる時間が圧倒的に多く、しかも医師や薬剤師など他の職種との関わりも豊かです。

つまり、看護師は作業療法士よりも持っている情報が多いわけです。

病院によってはクライエントが退院するまで作業療法士に情報が入らないところがあって、作業療法士はわりと情報不足で困っていますし、そういう状態は連携の質を落とすだけです。

精神科作業療法の質を高めるために、看護師は必要に応じて作業療法士を含むメンバーに情報提供し、多職種連携のカナメとして機能することが期待されていると考えられます。

その②:作業療法士と連携して、病棟でもクライエントの生活行為の改善に取り組む

作業療法士はクライエントの生活行為(仕事、日課、遊び、休息)に関する評価と支援の専門家です。

看護師も病棟でクライエントの生活行為に対する看護ケアに取り組んでいますが、作業療法士はクライエントが意味や価値を見いだした生活行為に着目した支援を行っています。

作業療法室で必要な生活行為に取り組んでも、症状からくる汎化の問題があって日常に取り込めないこともあります。

なので、看護師は作業療法士と連携して、クライエントが認識する必要な生活行為の改善に一緒に取り組み、日々の暮らしの中でできることを増やしていくとよいと考えられます。

その③:病棟と作業療法室とのクライエントの状態の違いを把握して、看護ケアに役立たせる

病棟では塞ぎこんでいても、作業療法室では活き活きとしているクライエントはわりといます。

逆に、病棟では普通に過ごしているのに、作業療法室では落ち着きなくそわそわしている方もいらっしゃいます。

こうした違いがわからないと、クライエントのいろんな側面を理解した支援は行えません。

クライエントは環境によって違う側面を見せますので、病棟と作業療法室の違いによって生じるクライエントの状態を把握し、今後の看護ケアに活かしていくとよいと考えられます。

その④:作業療法プログラムに参加し、クライエントと看護師の信頼関係の構築に活かす

精神科作業療法では自己の治療的利用を活かすために、クライエントとともに生活行為(買い物、外出、陶芸などの手工芸、他)を行うことがあります。

それによって経験を共有し、現実の生活との接点を取り戻す働きかけを行うわけです。

共同作業のプロセスの中で会話が弾み、信頼感が芽生えて、普段は言えないを相談してくることもあります。

なので、看護師は時間があれば作業療法プログラムに参加し、病棟とは異なる質の経験を共有し、今後の看護ケアに活かしていくとよいと考えられます。

看護師の役割を果たすための精神科作業療法の留意点

以上、精神科作業療法における看護師の役割をさくっと解説しました。

看護師の役割はとても重要で、精神科作業療法の質の向上に貢献していただけると非常にありがたいです。

他方、看護師が精神科作業療法に取り組むにあたって留意点もあります。

留意点

「生活療法における作業療法」と「作業療法における精神科作業療法」を混同しないこと

上記の2つは似ているようでまったく違いますのでご注意ください。

生活療法における作業療法

生活療法は医師の小林八郎が1950年代に提唱した精神科の治療法であり、生活指導、レクリェーション療法、作業療法から構成されています。

生活療法は徹底的な生活管理、病院内の清掃業務、配膳業務、外勤作業、内職作業などを行い、一時は病院の活性化、機能改善などのメリットをもたらしました。

しかし、徹底した生活管理は拘束的状況を生み、人権侵害、収益奪取、使役、集団管理などさまざまな問題を引き起こし、多くの批判を生みました。

生活療法における作業療法は当時の精神病院を活性することに一役買ったものの、人権侵害など負の側面から厳しい批判を浴びるものでした。

作業療法における精神科作業療法

他方、作業療法における精神科作業療法は、医師のフィリップ・ピネルが18世紀後半に提唱した治療法をルーツにする治療法です。

道徳療法は、クライエントを拘束的状況から解放し、精神障害をもつ人びとの自由と平等を担保したうえで健康と幸福を増進する生活行為に関わる機会を提供するものです。

道徳療法をルーツにもつ作業療法は、建築士&障害者のジョージ・バートンが1914年に提唱し、クライエントの自由と平等を前提に個別性を尊重した働きかけとして発展していきました。

作業療法士という国家資格を持つ人は「作業療法における精神科作業療法」の実践家であり、日本で生まれた「生活療法における作業療法」とはまったく関係ないです。

「生活療法における精神科作業療法」と「作業療法における精神科作業療法」の異同

「生活療法における精神科作業療法」と「作業療法における精神科作業療法」は作業療法という表記が共通しているだけで、歴史的にも理論的にも実践的にもいっさい接点をもちません。

ところが現在でも、精神病院によっては「生活療法における精神科作業療法」と「作業療法における精神科作業療法」を混同しているところがあります。

けど、これは水と油を「同じ液体だから性質も同じだ」と言っているようなものでして、ただの暴論です。

精神科作業療法における看護師の役割を理解するためには、「生活療法における精神科作業療法」と「作業療法における精神科作業療法」を明確に区別しなければなりません。

「作業療法における精神科作業療法」は「生活療法における精神科作業療法」と異なって、クライエントの自由と平等を担保し、その人らしく生きたいように生きることができるよう支援するものです。

こうした発想は「生活療法における精神科作業療法」にはないものですので、本当に混同しないようにご注意ください。

看護師が精神科作業療法を学べるおすすめの本【厳選3冊】

本記事でおすすめする本は以下の3冊です。

おすすめ本
  • 精神障害と作業療法
  • 精神領域の作業療法
  • 精神科作業療法の理論と技術

精神障害と作業療法

定番中の定番。

精神科作業療法の歴史、本質、理論、技術まで体系的に示しています。

「生活療法における精神科作業療法」と「作業療法における精神科作業療法」の違いも平易に解説しています。

精神科作業療法における看護師の役割を理解したい人はまずこれを読みましょう。

精神領域の作業療法

ぼくが編者として参加した本です。

「作業療法における精神科作業療法」を作業療法の本質論をベースに解説しています。

作業療法の意味を深くつかんだうえで、精神科作業療法における看護師の役割を理解したい人におすすめです。

精神科作業療法の理論と技術

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「作業療法における精神科作業療法」の比較的最近の動向を反映している本です。

精神医療の変化を踏まえて、最近どんな精神科作業療法が行われているのかを知りたい人にはおすすめ。

まとめ:精神科作業療法における看護師の役割

本記事では「精神病院で働く看護師です。精神科作業療法における看護師の役割について知りたいです。作業療法士が期待する精神科作業療法における看護師の役割をわかりやすく解説してもらえますか」という疑問にお答えしました。

本記事で解説した精神科作業療法における看護師の役割は以下の通りです。

精神科作業療法における看護師の役割
  • その①:多職種連携のハブとして機能する
  • その②:作業療法士と連携して、病棟でもクライエントの生活行為の改善に取り組む
  • その③:病棟と作業療法室とのクライエントの状態の違いを把握して、看護ケアに役立たせる
  • その④:作業療法プログラムに参加し、クライエントと看護師の信頼関係の構築に活かす

ひとつの意見として参考にしていただけるとうれしいです。

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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