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Web連載(リーズニング編)
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【入門】作業療法における倫理的リーズニング【Web連載】

京極真
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本記事では「倫理的リーズニングってなに?よくわからん。これっていったい何なの?」という疑問にお答えします。

作業療法士は、クライエントの最善の利益を追求するために、科学的な判断だけでなく、倫理的な判断も行わなければなりません。

しかし、倫理的な判断は、科学的な判断以上に、正しい答えが一つに定まらないことが多いです。

そこで、作業療法士は、倫理的リーズニングという思考プロセスを用いて、倫理的な問題に対処する必要があります。

倫理的リーズニングとは、作業療法における倫理的な問題を認識し、分析し、解決するための思考プロセスです。

この記事では、作業療法における倫理的リーズニングの要点について解説します。

なお、本記事と合わせて、私が編著者として参加した『作業療法リーズニングの教科書』もお読みいただけると、さらに理解が深まるかと思います。

Web連載(リーズニング編)は、毎月第2月曜日・第4月曜日(年末年始を除く)のペースでアップする予定です。

倫理的リーズニングが必要となる理由

まず、作業療法士として私たちが直面する主な疑問は、クライエントの現在の状態は何か、そしてその状態をどのように改善すべきか、という2つの基本的な問いです。

しかし、これらの問いに答えるだけでは十分ではありません。

なぜなら、作業療法プロセスでは、クライエントの個人的な希望や価値観、そして現実的制約(例えば、財政的な問題や保険の問題など)が複雑に絡み合っているからです。

ここで、倫理的リーズニングの重要性が浮かび上がってきます。

倫理的リーズニングは、単に「何ができるか」ではなく、「何をすべきか」という視点から作業療法の方針を考えることを意味します[1]。

例えば、クライエントの希望を尊重しつつ、その制約やリスクを考慮に入れた介入計画を策定する必要があると仮定します。

このような状況で、私たち作業療法士はどのように行動すべきか、というのが、倫理的リーズニングの必要性です。

そして、このリーズニングは、クライエントの最善の利益を追求するためのものであり、私たち作業療法の専門家としての責任の一部とも言えます。

つまり、作業療法における倫理的リーズニングは、患者の最善の利益を追求するための不可欠な要素であり、私たち作業療法士としての専門性と信頼性を高めるためのものなのです。

作業療法における倫理的リーズニングとは?

簡単に言えば、倫理的リーズニングは何が正しく、何が適切なのかを判断するための思考プロセスです [2]。

つまり、この思考法は、「何をすべきか?」という倫理的問題に答えるためのものです。

倫理的問題は、作業療法践においてしばしば出くわすもので、それは道徳的な価値や義務に関連する困難な選択を必要とする問題です。

例えば、クライエントがリスクある作業を希望する場合や、クライエントと作業療法士の意見が一致しない場合、さらには経営的側面との調整など、様々なシチュエーションでこの問題が起こっています。

倫理的リーズニングは、このような倫理的問題に対して「何をすべきか」という視点から分析や対策を考えるための思考様式です[2]。

これは、患者やクライエント、そして関わる全てのステークホルダーに対して、最も適切で公平な選択を行うための道筋として機能します。

科学的リーズニングや物語的リーズニングなどの他の作業療法リーズニングは、事実やデータ、経験に基づく情報を中心に思考を進めます。

それに対し、倫理的リーズニングは「良い」と「悪い」、または「正しい」と「間違っている」といった価値に基づく判断を行うためのものです。

これは、作業療法士が日々直面する複雑な状況の中で、最も適切な意思決定を導き出すための不可欠なスキルとなっています。

作業療法士にとって、倫理的リーズニングは倫理的問題を考える重要な思考法です。

日々の実践の中で遭遇する複雑な課題や選択の中で、作業療法士が適切な判断を下すためには、このリーズニングスキルが不可欠です。

作業療法における倫理的リーズニングのコツ

作業療法士の実践において、倫理的リーズニングは極めて重要な要素となります。

しかし、そのリーズニングのプロセスは様々な要因に影響を受けるため、以下のコツを意識して行うことが求められます[2]。

自己の価値観を認識する

まず、自己の価値観などがリーズニングにどれほど影響しているかを自覚することが必要です。

倫理的リーズニングは物事の良し悪しを扱うため、知らず知らずのうちに価値観を反映します。

自分の信じる価値観などがどれほどの影響を及ぼしているのかを理解し、それが適切な判断に繋がっているかを確認することが大切です。

倫理原則を活用する

倫理的リーズニングを活かすには、倫理原則(自律尊重原則、善行原則、無危害原則、正義原則)を熟知し、適切に活用する必要があります。

倫理原則は、日々の実践において公平で正確な判断を行うための支えとなります。

その他にも、功利主義、義務論、正義論など様々な倫理理論があるため、それらについても調べておきましょう。

それによって、倫理的問題に対してより深いリーズニングが可能となります。

組織の方針とバランスをとる

所属する組織や団体の方針、理念はリーズニングに大きな影響を及ぼすことがあります。

そのため、組織の価値観や方針を理解し、それを踏まえた上での判断を行うことが求められます。

組織との調和を図りながら、クライエントの最善の利益を追求するバランスを見つけましょう。

法律を認識する

法律は作業療法士の実践において、基本的なガイドラインとなります。

例えば、 「理学療法士及び作業療法士法」には生涯にわたって守秘義務を負うことが明記されています。

このように、法律は「何をすべきか」を考える倫理的リーズニングの支えとなることがあります。

倫理的リーズニングのプロセス

 上記で示したリーズニングプロセスにあわせて、倫理的リーズニングのプロセスを例示すると以下のようになるでしょう。

  1. 疑問を生成する:作業療法士は、倫理的問題を認識したら、物事の良し悪しの判断にかかる疑問を立てます。例えば、「クライエントとの意見が不一致しているが、私はどうすべきだろうか?」「どの業務を優先すべきか?」「どのように判断するのがよいか?」[1]などの疑問を立てます。
  2. 情報を収集する:作業療法士は、上記の疑問にそって情報を集めます。例えば、自身の価値観を再確認する、倫理原則を調べる、などを行います。また、関係する人々と話しあい、判断材料にすることも行います。
  3. 情報を分析する:作業療法士は、収集した情報を整理・検討します。倫理的問題は複雑ですから、すきっと整理することは難しい場合があります。また、検討しても明確な結論がでない場合もあります。それでもなお、収集した情報を整理検討し、その時点における最適解を見いだす努力が必要です。
  4. 疑問を解消・解決する:作業療法士は、分析した結果をもとに、最初に考えた疑問が解消・解決できるかを判断します。この例でいえば、分析した結果が「クライエントとの意見が不一致しているが、私はどうすべきだろうか?」などのという疑問に十分答えるものかどうかを判断します。その後、それは次の新しい疑問が生まれたり、評価や介入につながったりします。

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Microsoft Excelで作成したアプリケーションでして、Windows、Macのどちらでも動きます。

作業療法リーズニングを習得したい人は、ぜひご活用ください。

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倫理的リーズニングのメリットとデメリット

もちろん、倫理的リーズニングにはメリットとデメリットが存在します。

メリット

まず、メリットについて考えてみます。

倫理的リーズニングを行うことで、クライエントの個人的な希望や生活状況、財政的な制約などをしっかりと考慮した上で、最適な治療方針を策定することができます。

これにより、患者の満足度や介入の効果を高めることが期待できます。

また、 倫理的な判断を行うことで、患者やその家族、他の医療関係者からの信頼を得ることができます。

これは、長期的な関係性の構築や、より良い結果をもたらすための基盤となるでしょう。

デメリット

次に、デメリットに目を向けてみましょう。

倫理的リーズニングでは、多くの場合、複雑な状況や複数の選択肢の中から最適なものを選ぶ必要があります。

これには、高度な判断力や経験が求められることが多いです。

また、倫理的な問題は、一つの正解が存在するわけではありません。

そのため、選択した治療方針が必ずしも最適であったとは限らないというリスクを伴います。

まとめ

倫理的リーズニングは、作業療法リーズニングの一部として非常に重要です。

なぜなら、私たちが直面する多くの疑問や課題に対して、単に「何ができるか」という科学的な判断だけでなく、「何をすべきか」という倫理的な判断を下すことで、クライエントの最善の利益を追求することができるからです。

私たちの目的は、クライエントの作業遂行やQOL(生活の質)を向上させることです。

そのためには、クライエントの立場や価値観を尊重し、科学的な知識と倫理的な判断をバランス良く組み合わせることが不可欠です。

この記事を通じて、その重要性を再認識し、日々の業務に活かしていただければと思います。

作業療法リーズニングをもっと学びたい人へ

本記事では、作業療法リーズニングの一種である倫理的リーズニングについて解説しました。

作業療法リーズニングはこれ以外にも、科学的リーズニング、物語的リーズニング、実際的リーズニング、相互交流的リーズニングがあります。

また、その基盤には作業中心のリーズニングが存在しています。

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このセミナーでは、私(京極)が講師を務めており、作業療法リーズニングについて詳しく解説しています。

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文献

[1] Gillen G, Brown B (Eds). Willard & Spackman’s occupational therapy 14 ed. Wolters & Kluwer, Baltimore, 2023

[2] 藤本一博,小川真寛,京極真・編:5つの臨床推論で整理して学ぶ 作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2022

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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