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【第1回】作業療法の本質!OCPって何?作業中心の実践を徹底解説

京極真
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 本Web連載「作業療法士のための『OCP・OFP・OBP』入門ガイド」では、作業療法の中核をなす概念である「OCP(Occupation-Centered Practice)」、「OFP(Occupation-Focused Practice)」、「OBP(Occupation-Based Practice)」についてわかりやすく解説していきます。OCPは作業中心の実践を意味し、作業療法の本質を表しています。この記事では、OCPの定義や重視する視点、作業療法との関係性を説明し、OCPを理解することの重要性を伝えます。

 作業療法士にとって、OCPは欠かせない概念です。それは、作業療法の専門性や独自性を反映しており、他の療法との差別化を図る上でも重要な役割を果たします。しかし、作業療法の歴史が示す混乱を見ると明らかなように、OCPは理解が難しい概念でもあります。作業療法の独特な世界観が反映されており、初学者にはハードルが高いと感じられるかもしれません。

 そこで、本Web連載では、OCP(とそれに関連する重要概念)についてできるだけ平易な言葉で説明していきます。OCPの意義や実践方法を解説することで、読者の皆さんにOCPへの理解を深めていただければと思います。

 このWeb連載が役立ったという方は、拙著OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』(メジカルビュー社)をぜひご購入ください。この本では、Web連載よりもさらに専門的に詳しく解説しております。本書は、本Web連載を通してOCP・OFP・OBPに関心を持たれた方が、次の一歩を踏みだすための絶好の機会となることでしょう。

 それでは、さっそく本題に入りましょう。

OCPとは?作業中心の実践の意味

 OCPとは、Occupation-Centered Practiceの略で、日本語では「作業中心の実践」と訳されます。この概念は、作業療法の根幹をなすものであり、作業療法士が常に意識しておくべき「視点」です。OCPは、作業療法の目的が作業的存在としての人々の作業への参加を促進することであると捉え、作業を中心に据えた実践を重視します。

 ここでいう「作業」とは、日常生活における様々な活動のことを指します。したいこと、する必要があること、することが期待されていることが作業です。たとえば、食事をする、入浴する、趣味を楽しむ、仕事をする、人と交流するなどがそれに当たります。こうした日々の作業は、人々の健康、幸福、公正に大きく関わっています。

 私の理解で言うと、OCPは、作業療法士のマインドセットを意味します。つまり、クライエントの作業ニーズに着目し、その人らしい作業の実現を目指す実践のための視点なのです。病気やけがによって作業に支障をきたした人々に対して、作業療法士はOCPという観点から評価や介入を行います。その際、クライエントの価値観や生活様式を尊重しながら、その人にとって意味のある作業に取り組めるよう支援するのです。

OCPを構成する3つの視点

 OCPは、以下の3つの重要な視点で構成されています。

1. 人々を作業機能障害を経験する可能性を持つ作業的存在として捉える

 作業的存在とは、生存と繁栄のために作業が不可欠な存在のことを指します。人々は日常生活の中で様々な作業機能障害(作業の遂行や参加に関する課題や困難さ)に直面します。OCPでは、こうした作業的存在としての人々に着目します。

 作業療法の対象となるクライエントは、病気やけが、障害によって作業に困難を抱えています。たとえば、脳卒中によって手足に麻痺が残った人は、食事や更衣、入浴などの日常生活動作に支障をきたすかもしれません。また、精神障害によって対人関係や社会参加に不安を感じる人もいるでしょう。こうした人々を作業的存在と捉え、その作業ニーズに寄り添うことがOCPの出発点となります。

 作業療法士は、クライエントの作業遂行や作業参加を評価し、その人に合った作業の実現を目指します。そのためには、クライエントが今現在、支援を必要としている作業に焦点を当て、それに実際に取り組むことによって可能にしていきます。また、作業療法士は必要に応じて、機能回復はもちろん、環境調整や道具の工夫、代替手段の獲得など、様々なアプローチを駆使して作業の再建を図ります。こうした支援を通じて、クライエントは自分らしい作業的生活を取り戻していきます。

2. 人々の生活における作業の価値を尊重する

 作業は人々の生活の中心であり、健康と幸福に不可欠なものです。何気なく行っている作業でも、クライエントの生活に欠かせません。OCPでは、クライエントの生活における作業の価値を尊重する視点を採用し、その人らしい作業の実現を目指します。

 人が作業に従事するのは、単に時間を潰すためではありません。作業には、その人なりの意味や価値が込められています。家事をこなすことで家族への愛情を示したり、趣味に熱中することで生きがいを感じたりするのです。作業を通じて、人は自己実現を果たし、他者とのつながりを育んでいます。

 OCPでは、画一的な価値観を押し付けるのではなく、クライエント一人ひとりの生活背景を理解した上で、その人にとっての作業の価値を見出だしていくことが大切だと考えます。例えば、同じ作業でもそれぞれの価値観は異なります。ある人にとっては大切な作業でも、別の人にとっては重荷に感じられるかもしれません。また、文化によっても作業の意味合いは変わります。OCPは、文脈依存的な作業の価値にも着目します。

OCPという視点をもつ作業療法士は、クライエント(本人・家族・キーパーソン)との言語的・非言語的な対話を通じて、その人の作業観を探ります。そして、クライエントが大切にしている作業やしたいと願う作業を見極め、それを実現するための支援を行うのです。時には、新たな作業の可能性を提案することもあるでしょう。OCPは、クライエントの主体性を尊重しつつ、豊かな作業生活の実現を目指す営みなのです。

3. 作業療法プロセスのすべてで作業をどのように活用し促進するかを考える

 OCPでは、作業療法のプロセス全体を通して、作業に焦点を当てた実践(Occupation-Focused Practice, OFP)と作業に根ざした実践(Occupation-Based Practice, OBP)を重視します。評価では、作業に焦点を当てた評価(Occupation-Focused Evaluation, OFE)と作業に根ざした評価(Occupation-Based Evaluation, OBE)を行います。介入では、作業に焦点を当てた介入(Occupation-Focused Intervention, OFI)と作業に根ざした介入(Occupation-Based Intervention, OBI)を実施します。そして、成果としては作業遂行の改善や作業参加の拡大を目指します。

 作業療法の一連のプロセスにおいて、常に作業を軸に据えて考えることがOCPの特徴です。評価の段階では、クライエントの作業遂行や作業参加を丁寧にアセスメントします。そこから見えてくるのは、その人の作業機能障害であり、作業ニーズです。また、必要に応じて、心身機能・構造、環境因子、文脈的側面、個人因子を評価します。

 介入では、その作業機能障害の解決に向けて、作業を目的あるいは手段とした支援を行います。たとえば、調理が苦手なクライエントに対して、料理の工程を細分化して練習したり、キッチンの動線を改善したりといった介入が考えられます。また、グループ活動など、他者との協働を通じた作業の獲得も有効でしょう。OCPでは、作業そのものを変化のエージェントとして活用するのです。

 そして、作業療法の成果は、単なる心身機能の改善ではなく、クライエントの作業遂行の向上や作業への参加の広がりとして評価されます。体の動きがスムーズになっても、料理ができるようにならなければ、調理の作業機能障害は解決したとはいえません。OCPは、クライエントの実際の生活場面での作業の変化を重視するのです。

OCPと作業療法の関係性

 OCPは作業療法の本質であり、作業療法の本体であると言えます。 OCPは作業療法の中核をなす概念であり、作業療法の専門性を反映しています。作業療法は、他の療法とは異なり、作業を中心に据えた実践を行うことを特徴としています。OCPは、この作業療法の専門性の源泉であり、作業療法士がクライエントの作業ニーズに寄り添うための指針となります。

 医療の現場では、様々な職種が連携してクライエントの支援に当たります。その中で、作業療法士はOCPの視点からクライエントの作業機能障害を捉え、作業の再建や獲得を目指します。これは、他の職種にはない作業療法独自の強みであるといえます。

 たとえば、理学療法士は身体機能の回復を主眼に置き、言語聴覚士はコミュニケーション能力の改善を目指します。一方、作業療法士はそうした機能面の向上も大切にしつつ、それが日常生活の作業にどうつながるのかを重視するのです。OCPは、クライエントの生活を見据えた実践を可能にする、作業療法の核となる考え方なのです。

 さらに、OCPは作業療法のリーズニング(作業中心のリーズニング科学的リーズニング物語的リーズニング実際的リーズニング倫理的リーズニング相互交流的リーズニング)とプロセス(OFP・OBP)の基盤ともなっています。上述したように、OFPは作業に焦点を当てた実践、OBPは作業に根ざした実践を意味しますが、これらはOCPの考え方に基づいています。

 OFPは、クライエントの作業ニーズを出発点として、作業を中心に評価や介入を展開していく一連のプロセスを指します。OFPにおいて、作業療法士は、クライエントが今現在困っている作業を把握し、その問題解決に向けて支援を行います。そこでは、クライエントの作業ニーズに対して近位焦点を当てた作業遂行面接や、その作業を支援するための教育的プログラムや適応的プログラムの提供などが行われます。

 OBPは、クライエントにとって意味のある作業に実際に取り組む介入や評価を添加していく一連のプロセスです。OBPにおいて、作業療法士は、クライエントの作業機能障害を解決するために、実際に作業に参加する機会を提供します。そこでは、クライエントが実際に作業を行う様子から遂行分析や課題分析などを行ったり、作業を可能にするために段階づけやモデリング、チェイニングなどを行います。

 OCPは、こうしたOFPとOBPの基盤であり、すべての作業療法実践に通底する概念なのです。

まとめ:OCPを理解して作業療法の専門性を発揮しよう

 OCPは作業療法の本質であり、作業中心の視点に基づいています。OCPは、人々を作業的存在と捉え、作業の価値を尊重し、作業療法のプロセス全体で作業の活用を重視します。作業療法士にとって、OCPを深く理解することは非常に重要です。

 作業は、人間の生命や生活の基盤をなすものであり、作業なくして健康で豊かな人生は成り立ちません。病気やけが、障害によって作業が脅かされたとき、人は作業療法士の支援を必要とします。OCPは、そうした作業的危機に直面する人々に寄り添い、作業を通じて新たな可能性を拓く道しるべとなるのです。

 OCPに基づいて評価・介入・成果を捉えることで、作業療法らしい実践が可能になります。作業療法士は、OCPを心得て、クライエントの作業ニーズに寄り添い、その人らしい作業の実現を支援していくことが求められます。機能訓練やADL指導にとどまらず、生活行為の再建や社会参加の促進など、包括的な作業支援が求められるのです。

 作業療法が目指すのは、クライエントが自分にとって価値ある作業を、望むかたちで行えるようになることです。病気やけがを抱えても、その人らしい作業的な生活が送れるように支援する。それが、OCPに基づく作業療法の使命だといえるでしょう。そのためには、医学的な知識や技術だけでなく、作業に関わる幅広い視点と創造性が欠かせません。

 OCPは作業療法の専門性の源泉です。作業療法士、作業療法学生の皆さんも、OCPについて深く理解し、日々の実践に活かしていきましょう。クライエントの作業機能障害の解決と、豊かな作業的生活の実現に貢献できるはずです。OCPを通じて、作業の力を信じ、クライエントに寄り添う。その姿勢こそが、作業療法士の真骨頂なのです。

文献

京極真,藤本一博,小川真寛・編:OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書.メジカルビュー社,2024

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、人間科学部長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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