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【第2回】作業療法プロセスを知ろう!OFPとOBPの違いとは?

京極真
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作業療法プロセスを知ろう!OFPとOBPの違いとは?

本論では、作業療法実践において重要な概念である「OFP(Occupation-Focused Practice)」と「OBP(Occupation-Based Practice)」について解説します。OFPとOBPは、OCP (Occupation-Centered Practice)(第1回)から派生したものであり、OFPとOBPがあわさって作業療法プロセスに統合されます。

作業療法士にとって、OFPとOBPの理解は欠かせません。これらは、作業療法の専門性を反映しており、独自の仕方でクライエントを支援する重要な役割を果たします。また、作業療法と他の療法との差別化を図るうえでも重要です。つまり、作業療法士が作業療法の専門家として、作業療法を実践するために、これらの概念の理解が不可欠なのです。

しかし、作業療法の歴史が示唆しているように、OFPとOBPはOCPと同様に理解が難しい概念でもあります。作業療法は過去に、作業中心性(occupation-centeredness)という根本原則を見失いました。現代作業療法はその反省からくる原点回帰の努力の過程にありますが、いまだその実現にはほど遠いものがあります。

そこで、本論では、OFPとOBPについて、できるだけ平易な言葉で説明します。本論を通して、作業療法プロセスにおけるOFPとOBPの役割を理解し、クライエントの作業を支援するための基盤を築いていきましょう。

このWeb連載が役立ったという方は、拙著『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』(メジカルビュー社)をぜひご購入ください。この本では、より専門的に詳しく解説しております。本書は、本Web連載を通してOCP・OFP・OBPに関心を持たれた方が、次の一歩を踏みだすための絶好の機会となることでしょう。

それでは、さっそく本題に入りましょう。

OFPとは?作業に焦点を当てた実践

OFPは、Occupation-Focused Practiceの略で、「作業に焦点を当てた実践」を意味します。OFPでは、作業療法士の主たる関心事が、いま現在対応が求められる作業や作業機能障害に向いている状態を指します。つまり、遠い未来や過去の作業、他の事柄(例えば、環境因子、個人因子、心身機能構造など)に関心を持つことは含まれません。これは、作業に近位焦点(現在の作業や作業機能障害に直接的な)の関心を向けることなのです。このように、OFPは作業療法士の注意・関心の向け方に関係する概念だと言えます。

ここでいう「作業」とは、日々の生活を構成する「したいこと」、「する必要があること」、「することが期待されていること」を指します。例えば、食事をする、入浴する、趣味を楽しむ、仕事をする、人と交流するなどが、それに当たります。こうした日常の作業は、人々の健康や幸福、公正に良くも悪くも関わっています。

また、作業機能障害は作業の選択、遂行、関与、達成、組織化といったことに問題が生じている状態を指しています。例えば、したい作業を選べない、必要な作業を満足に行えない、作業に充実感や達成感がない、複数の作業を上手く組み立てられない、などがそれに当たります。作業機能障害は、健康や幸福、公正に負の影響を与えます。ゆえに、作業療法士はクライエントが現在体験している作業機能障害に関心を向けます。

OFPは、その人らしい作業の実現を目指すために、いま現在対応が求められている作業機能障害に着目する実践です。病気や障害によって作業に支障をきたした人々に対して、作業療法士はOFPによる評価や介入を行います。その際、作業療法士は、クライエントの価値観や生活様式を尊重しながら、クライエントがいま現在困っている作業(作業機能障害)に着目し、そうした作業を改善したり、適応したりできるよう支援するのです。

OFPを実践するためには、クライエントの作業ニーズ、作業の意味、作業と健康・幸福の関係性について深く理解することが求められます。例えば、脳卒中をもつクライエントに対するOFP評価では、作業療法士はクライエントが現在の日常生活で大切にしている作業や、したいと願っている作業を丁寧に聞き取ります。そして、それらの作業の遂行状況、作業遂行の質、作業に影響する要因などを多角的に評価します。作業療法士は、作業焦点の視点からクライエントを理解する評価を展開します。

評価を通して明らかになった、クライエントにとって価値ある作業や作業機能障害の情報をもとに、作業療法士はOFP介入の計画を立てます。その際、作業療法士の主たる注意・関心は心身機能構造や環境因子ではなく、クライエントが実現したい作業に向けられている必要があります。そうした作業に対する近位焦点の注意・関心が維持されたまま、作業への参加、環境調整、支援機器の活用、問題解決やカウンセリングなどを含む、作業遂行を改善・補完する様々なアプローチを検討します。

このように、OFPは現在対応が求められる意味のある作業や作業機能障害を中心に据えた実践を促します。作業療法士は、クライエントの作業的存在としての可能性を拡張するために、その人らしい作業の実現を目指して支援を行うのです。

OBPとは?作業に根ざした実践

OBPは、Occupation-Based Practiceの略で、「作業に根ざした実践」を意味します。OBPは、作業療法の主たる方法であり、作業療法プロセスにおいてクライエントが実際の作業に参加する機会を提供することを特徴としています。つまり、OBPは作業療法特有のやり方・アプローチに関係する概念だと言えます。

OBPを実践するためには、評価と介入のいずれにおいても、クライエントが作業に参加できる機会を提供することが不可欠です。例えば、統合失調症をもつクライエントに対して、OBPに基づく評価と介入を行うとします。作業療法士は、クライエントの作業ニーズ(近所に買い物に行きたい、自炊したい、仕事に復帰したい、など)を達成できるように、実際に買い物、自炊、仕事に必要な課題に取り組める機会を提供します。評価でも、介入でも、です。

買い物を例に深掘りすると、評価ではまず、OFPでクライエントの作業ニーズを把握し、クライエントが自分で買い物できるようになりたいという動機を持っていることを確認します。次に、OBPで実際の買い物の作業遂行を観察評価します。店に行く、店内で必要な商品を探して見つける、レジで会計するなどの一連の動作を観察し、どの部分に困難が生じているかを特定します。

評価結果を基に、作業療法士はクライエントに合わせた買い物の練習の機会を提供します。例えば、買い忘れが問題になるようであれば、買い物リストの作成を促し、クライエントが買い忘れしないように支援します。また、必要な商品を探し出すことに困難さがあれば、店内にある商品の場所の手がかりを確認する方法や店員に質問する方法の習得を支援します。こうした支援を行いながら、作業療法士はクライエントが実際に買い物を習得する機会を設けます。介入の際は、クライエントの安全に配慮しつつ、できるだけ自立して作業ができるようにします。困難な点があれば、その都度、必要な介入を提供します。

作業療法プログラムで買い物が一通りできるようになったら、実際の生活場面での定着を図ります。たとえば、クライエントが作業療法で覚えた作業の可能化戦略を活かして、買い物する機会をもてるように買い物のホームワークを提供します。また、家族や他の支援者がいる場合、家族にも練習した方法を伝え、クライエントを支援してもらえるよう協力を求めます。さらには、作業の可能化戦略を水平展開し、他の作業をできるように活かすことを促進します。

このように、OBPではクライエントが実際の作業に取り組む機会を提供し、その獲得を促します。OBPは作業そのものを変化のエージェントとして活用するのです。クライエントが実際の作業に従事することで、作業遂行能力の向上を図り、作業機能障害の改善にとりくむのです。

OFPとOBPの違い

OFPとOBPは、ともに作業を重視する概念ですが、それぞれ力点が異なります。OFPは作業への注目の仕方を強調するのに対し、OBPは作業への参加を強調するという違いがあります。評価と介入において、OFPでは、作業の意味や価値に着目することが重要ですが、OBPでは、実際の作業に取り組むことが重要視されるのです。

例えば、気分障害のクライエントに対する作業療法を考えてみましょう。OFPの視点では、クライエントにとって価値ある作業は何か、その作業の意味はどのようなものかを探ります。仕事や趣味、家族との交流など、クライエントの生活の中で大切にしている作業を見出だし、その作業の価値を共有するのです。

一方、OBPでは、クライエントが実際にそれらの作業に取り組む機会を作ることが重要になります。気分障害があっても、工程を簡略化することによって調理ができるようにしたり、機会を確保することで趣味を続けられるようにしたりするのです。作業への参加を通して、クライエントの作業遂行能力の向上や作業機能障害の解決を目指します。

このように、OFPとOBPは作業を捉える視点が異なります。OFPは作業への近位焦点化を重視し、OBPは作業への参加機会を重視するのです。作業療法士は、この両者の視点を適切に使い分け、作業療法リーズニングとプロセスに統合していくことが求められます。

作業療法プロセスとOFP、OBP

前回、OCPについて解説しましたが、これは、作業療法プロセスを通して作業に着目し、作業を活かす方法を考えるものです。つまり、作業療法プロセスにOFPとOBPを統合するという意味があります。それでは、OFPとOBPは、作業療法プロセスにどう織りこまれるのでしょうか?

まず、作業療法プロセスについてです。作業療法プロセスは評価ー介入ー成果測定で構成される継続的で反復的なプロセスです。評価ではクライエントの状態を理解し、介入ではクライエントに変化をもたらし、成果測定ではどの程度変化したかを明らかにします。このプロセスは、どんな年齢層、どんな領域であっても共通しています。

評価は、クライエントの状態を理解することであり、スクリーニング、面接、観察があります。スクリーニングは作業療法の必要性を迅速に判断することであり、面接はクライエントとの対話を通して理解することであり、観察はクライエントの様子をしっかり観ることです。評価は作業療法プロセスのはじまりですが、介入中も継続的に行われるものです。

介入は、クライエントの状態に変化を引き起こすことであり、評価結果を踏まえて、目標を設定し、介入計画を立案し、実行します。介入は、作業への参加、環境調整、支援機器の提供、問題解決やカウンセリングの提供といった様々なアプローチで構成されています。例えば、作業への参加を促進するためには、ADLやIADL訓練、趣味や仕事に関連する活動の練習が含まれます。環境調整では、クライエントがより自立して生活できるように改良が行われます。支援機器の提供では、車椅子や補助具、コミュニケーション機器などが使用され、クライエントの生活の質を向上させます。問題解決やカウンセリングの提供では、作業療法で取り組む作業以外にも参加できるように支援します。

成果測定は、介入の効果を評価します。介入によって目標がどの程度達成できたのか、評価時の状態に比べてどのように変化したのかを明らかにします。その結果を踏まえて、介入を終了するのか、引き続き介入するのかを判断します。

以上、作業療法プロセスについて解説しましたが、OFPとOBPは作業療法プロセスにおいても重要な役割を果たします。評価と成果測定において、OFPとOBPは、作業に焦点を当てた評価(OFE)と作業に根ざした評価(OBE)として組みこまれます。たとえば、OFEの構成的評価ではCOPM、OSA、OPHI-II、CAODなど、非構成的評価では作業遂行面接が使われます。また、OBEの構成的評価ではダイナミック遂行分析、PQRS、AMPS、VQ、ACISなど、非構成的評価では遂行分析、拡張課題分析などが使われます。

また、作業療法プロセスにおける介入において、OFPとOBPは、作業に焦点を当てた介入(OFI)と作業に根ざした介入(OBI)として組みこまれます。OFIは、クライエントがいま現在困っている作業機能障害に焦点を当てた介入全般を含みます。たとえば、トイレ動作を自立したいというクライエントに対して、それに焦点を当てた介入はOFIです。OBIは、作業への参加を活かす介入全般を含みます。たとえば、実際にトイレ動作の練習を行うことはOBIです。

OFPとOBPは、作業療法プロセスを支える両輪だといえます。OFPは、クライエントの作業ニーズを見出だし、ただちに対応が必要な作業機能障害の評価と介入の視点を提供します。OBPは、クライエントの作業遂行を直接的に評価し、作業への参加を促す介入の方法を提供します。作業療法士は、この両者を適切に組み合わせ、クライエントに合わせた作業療法を展開する必要があります。

まとめ:作業療法プロセスでOFPとOBPを駆動させよう!

OFPとOBPは、作業療法の中核をなす概念であり、作業療法プロセスの基盤となります。OFPは作業への注目を通して、OBPは実際の作業への参加を通して、クライエントの作業遂行を評価し、作業機能障害を解決します。

作業は、人間の生命や生活の基盤をなすものであり、作業なくして健康で豊かな人生は成り立ちません。病気や障害によって作業が脅かされたとき、人は作業療法士の支援を必要とします。OFPとOBPは、そうした作業的危機に直面する人々に寄り添い、作業を通じて新たな可能性を拓く道しるべとなるのです。

文献

京極真,藤本一博,小川真寛・編:OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書.メジカルビュー社,2024

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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