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Web連載(リーズニング編)
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【入門】作業療法における相互交流的リーズニング【Web連載】

京極真
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本記事では「相互交流的リーズニングってなに?どうやるの?」という疑問にお答えします。

作業療法士としての日々の業務では、クライエント個人について深く理解し、しっかりとした治療的信頼関係を作りたいと思うことが多いでしょう。

作業療法は、クライエントの作業に焦点を当てて、その人らしく生きることを支援するアプローチです。そのためには、クライエントの作業に関するニーズや価値観、感情や動機などを知る必要があります。

また、クライエントから信頼されることも欠かせません。

そうすれば、クライエントは作業療法士と協力して、自分の目標に向かって努力できるようになります。

このようなクライエントとの交流を促進するために、相互交流的リーズニングが重要な役割を果たします。

相互交流的リーズニングとは、クライエントの視点を尊重して、クライエントのニーズや感情に応えるために、作業療法士が行う思考プロセスのことです。

これは、クライエントと作業療法士が作業療法プロセスを通してコミュニケーションを取りながら、クライエント個人について理解したり、治療的信頼関係を構築したりするための思考法でもあります。

本記事では、相互交流的リーズニングの要点についてわかりやすく解説します。

相互交流的リーズニングを理解することで、作業療法士としてのコミュニケーションスキルや人間関係スキルが向上するでしょう。

なお、本記事とあわせて私が編著者として参加している『作業療法リーズニングの教科書』をお読みいただけると、さらに理解が深まります。こちらもぜひお読みください。

Web連載(リーズニング編)は、毎月第2月曜日・第4月曜日(年末年始を除く)のペースでアップする予定です。

作業療法における相互交流的リーズニングとは?

リーズニングとは?

リーズニングは、問題に対応するかたちで複数の事実から何らかの判断を導く作業療法士の思考様式です[1]。

わかりやすくいうと、それは「疑問を生成する→情報を収集する→情報を分析する→疑問を解消・解決する」という思考プロセスになります。

つまり、作業療法士は何らかの疑問を立てて、その疑問を解くために様々な情報の収集・分析を行っており、それをリーズニングと呼ぶわけです。

 この思考プロセスをもう少し詳しく説明すると、以下のようになります。

  1. 疑問を生成する:作業療法士は、クライエントに関する何らかの疑問を特定します。これは、リーズニングの出発点であり、思考するうえで最も重要です。
  2. 情報を収集する:作業療法士は、疑問にそって情報を集めます。情報源は、スクリーニング、面接、観察の他に、論文や著書、他職種からの情報、倫理原則、法律なども含まれます。
  3. 情報を分析する:作業療法士は、収集した情報を整理・検討します。疑問の解消・解決に役立つ情報を見つます。
  4. 疑問を解消・解決する:作業療法士は、分析した結果をもとに、最初に考えた疑問が解消・解決できるかを判断します。それは次の新しい疑問につながったり、具体的な評価や介入に発展したりすることもあります。

 リーズニングには様々な種類がありますが、基本的にはこのような流れになると言えるかと思われます。

相互交流的リーズニングとは?

では、相互交流的リーズニングとは、どのようなリーズニングでしょうか?

相互交流的リーズニングとは、クライエントの視点を尊重して、クライエントのニーズや感情に応えるために、作業療法士が行う思考プロセスのことです[2]。

作業療法士は、作業療法プロセスの中で、クライエントとのコミュニケーションを重視します。

このコミュニケーションを通じて、作業療法士は相互交流的リーズニングを行います。

また、相互交流的リーズニングは、治療的信頼関係の構築や維持に重要な役割を果たします[1]。

治療的信頼関係とは、クライエントと作業療法士が互いに尊重し、信頼し、協力し合う関係のことです。

治療的信頼関係があれば、クライエントは作業療法士に対して自分の思いや悩みを素直に話すことができます。

また、作業療法士はクライエントの話を聞きながら、クライエントの気持ちや考え方を理解しようと努めます。

これにより、作業療法士はクライエントに適切な支援や介入を提供することができます。

加えて、相互交流的リーズニングは、意識的にも無意識にも行われることがありますが、作業療法士は常にクライエントの反応に注意を払い、必要に応じてコミュニケーション戦略を変えることが求められます[2]。

コミュニケーション戦略とは、作業療法士がクライエントとの対話を円滑にするために用いる技術や方法のことです。

例えば、作業療法士はクライエントに質問をすることで、クライエントの意見や希望を引き出すことができます。

また、作業療法士はクライエントに共感や励ましを示すことで、クライエントの自己肯定感や自己効力感を高めることができます [1]。

さらに、作業療法士はクライエントにフィードバックや教育を行うことで、クライエントの理解や学習を促進することができます。

以上から、相互交流的リーズニングとは、クライエントと作業療法士のコミュニケーションを通じて、クライエントの生活世界に入り込み、クライエントのニーズや感情に応えるために作業療法士が行う思考プロセスであると言えます。

相互交流的リーズニングは治療的信頼関係の構築や維持に重要な役割を果たし、作業療法士は対人的な戦略を用いて相互交流的リーズニングを行います。

作業療法における相互交流的リーズニングのコツ

相互交流的リーズニングの実践的なコツを解説します。

相互交流的リーズニングを行うためには、以下の点に注意すると良いでしょう[2]。

クライエントの視点を尊重する

クライエントは自分の作業について一番よく知っている人です。

作業療法士は、クライエントの話をよく聞き、クライエントの意見や希望を尊重しましょう。

クライエントと協力して作業療法プロセスを進めることが大切です。

クライエントのニーズや感情に応える

クライエントは作業療法士に対して様々なニーズや感情を持っています。

作業療法士は、クライエントのニーズや感情を理解し、適切に応えることが必要です。

例えば、クライエントが不安や恐怖を感じているときは、作業療法士はクライエントに安心感や信頼感を与えられるように振る舞う必要があります。

また、クライエントが自信や希望を持っているときは、作業療法士はクライエントの能力や可能性を認めて励ますとよいでしょう。

コミュニケーションスキルを磨く

コミュニケーションスキルとは、言葉や身振り手振りなどで自分の思いや考えを伝えたり、相手の思いや考えを受け取ったりする能力のことです。

作業療法士は、コミュニケーションスキルを磨くことで、相互交流的リーズニングを効果的に行うことができます。

例えば、作業療法士は、質問などの技術を用いて、クライエントの話を引き出したり、確認したりすることができます。

また、作業療法士は、共感などの技術を用いて、クライエントの気持ちに寄り添ったり、評価したりすることができます。

コミュニケーション戦略を柔軟に変える

コミュニケーション戦略とは、作業療法士がクライエントとのコミュニケーションを円滑にするために用いる技術や方法のことです。

作業療法士は、コミュニケーション戦略を柔軟に変えることで、相互交流的リーズニングを適応的に行うことができます。

例えば、作業療法士は、クライエントの反応やフィードバックに注意を払って、コミュニケーション戦略が効果的かどうかを判断することができます。

また、作業療法士は、クライエントの特性や状況に応じて、コミュニケーション戦略を変更したり、組み合わせたりすることができます。

相互交流的リーズニングのプロセス

上記で示したリーズニングプロセスにあわせて、相互交流的リーズニングのプロセスを例示すると以下のようになるでしょう。

  1. 疑問を生成する:作業療法士は、クライエント個人について深く知るための疑問を立てます。例えば、「クライエントにとって意味のある作業は何だろうか?」「クライエントと良好な関係を築くにはどうしたらいいか?」[2]などの疑問を立てます。
  2. 情報を収集する:作業療法士は、上記の疑問にそって情報を集めます。例えば、クライエントとコミュニケーションをとって意味のある作業について詳しく聞いていきます。また、クライエントと良好な関係を築くために、日頃から言語的・非言語的なサインをキャッチします。
  3. 情報を分析する:作業療法士は、収集した情報を整理・検討します。例えば、クライエントが語った内容から、クライエントにとって意味のある作業が素直に特定できるかもしれません。あるいは、クライエントの語りの文脈を読み解くことによって、実は語ったこと以外に大切にしていた作業があったと気づくかもしれません。また、日頃から言語的・非言語的なサインをキャッチし、それを整理・検討することによって、クライエントが好むコミュニケーションパターンがわかるかもしれません。
  4. 疑問を解消・解決する:作業療法士は、分析した結果をもとに、最初に考えた疑問が解消・解決できるかを判断します。この例でいえば、分析した結果が「クライエントにとって意味のある作業は何だろうか?」「クライエントと良好な関係を築くにはどうしたらいいか?」という疑問に十分答えるものかどうかを判断します。その後、それは次の新しい疑問が生まれたり、評価や介入につながったりします。

実際にはもっと複雑なプロセスになりますが、わかりやすく示すと上記のようになります。

作業療法士のためのリーズニング学習支援ツール

以上のようなリーズニングを習得するための教材として、「作業療法士のためのリーズニング学習支援ツール」を無料で提供しています。

Microsoft Excelで作成したアプリケーションでして、Windows、Macのどちらでも動きます。

作業療法リーズニングを習得したい人は、ぜひご活用ください。

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相互交流的リーズニングのメリットとデメリット

作業療法士としての業務において、相互交流的リーズニングは非常に重要な役割を果たします。

しかし、このリーズニング方法には、メリットとデメリットが存在します。

それでは、それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

メリット

最も大きなメリットは、クライエントの作業機能障害をより深く理解することができる点です。

クライエントの視点から物事を理解する努力を重ねることで、その人の作業ニーズや希望、懸念をよりよく把握することができます。

また、クライエントとの信頼関係の構築や、作業療法の質の向上にも繋がります。

デメリット

一方、相互交流的リーズニングには課題も存在します。

まず、多忙な日常で時間が限られている場合、クライエントの視点や感情を深く理解する時間が十分に取れないことがあります。

さらに、相互交流的リーズニングは、意識的にも無意識的にも行われます。

このため、無意識的に場の雰囲気に合わない行動や態度を取ってしまうことがある人は、適切なバランスを見つけるのが難しくなることが考えられます。

まとめ

作業療法士としての日々の業務の中で、私たちが直面する多くの課題や疑問に答える鍵となるのが、相互交流的リーズニングです。

このリーズニングを通じて、クライエントとのコミュニケーションの深化を図ることができ、それによってクライエントの作業ニーズを把握することが可能となります。

クライエントとの治療的信頼関係を築き、その人の作業遂行や生活の質を向上させるためのサポートを提供すること。

これが私たち作業療法士の目標であり、相互交流的リーズニングを磨き続けることで、その目標に一歩一歩近づいていくことができるでしょう。

作業療法リーズニングをもっと学びたい人へ

本記事では、作業療法リーズニングの一種である相互交流的リーズニングについて解説しました。

作業療法リーズニングはこれ以外にも、科学的リーズニング、物語的リーズニング、実際的リーズニング、倫理的リーズニングがあります。

また、その基盤には作業中心のリーズニングが存在しています。

さらに深く作業療法リーズニングについて学びたい方は、無料Webセミナー「作業療法リーズニング入門講座」に参加してください。

このセミナーでは、私(京極)が講師を務めており、作業療法リーズニングについて詳しく解説しています。

作業療法リーズニングは、作業療法士としての専門性を高めるための重要なツールです。

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文献

[1] 藤本一博,小川真寛,京極真・編:5つの臨床推論で整理して学ぶ 作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2022

[2] Gillen G, Brown B (Eds). Willard & Spackman’s occupational therapy 14 ed. Wolters & Kluwer, Baltimore, 2023

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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