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【第5回】作業に焦点を当てない実践(NOFI)・作業に根ざさない実践(NOBP)とは?

京極真
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今回は、作業に焦点を当てない実践(NOFP)と作業に根ざさない実践(NOBP)について解説していきます。作業療法では、作業に焦点を当てた実践(OFP)、作業に根ざした実践(OBP)が専門性を反映した方法ですが、一方でNOFP、NOBPも状況に応じて活用する必要があります。なぜなら、作業療法の幅広い対象者や多岐にわたる問題に対応するために、多様なアプローチを身につける必要があるからです。そこで、本論では、NOFPとNOBPについて説明していきます。

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それでは、さっそく本題に入りましょう。

NOFPとNOBPとは?

NOFPは、Non-Occupation-Focused Practiceの略で、「作業に焦点を当てない実践」を意味します。NOFPの特徴は、作業以外の要因(身体機能構造や環境因子、文脈など)に主な関心が向けられるところにあります。NOFEは、Non-Occupation-Focused Evaluationの略で、「作業に焦点を当てない評価」を意味します。これは、NOFPの評価的側面です。NOFIは、Non-Occupation-Focused Interventionの略で、「作業に焦点を当てない介入」を意味します。これは、NOFPの介入的側面です。

他方、NOBPは、Non-Occupation-Based Practiceの略で、「作業に根ざさない実践」を意味します。NOBPの特徴は、評価や介入で実際の作業遂行が伴わないところにあります。NOBEは、Non-Occupation-Based Evaluationの略で、「作業に根ざさない評価」を意味します。これは、NOBPの評価的側面です。NOBIは、Non-Occupation-Based Interventionの略で、「作業に根ざさない介入」を意味します。これは、NOBPの介入的側面です。

たとえば、関節可動域訓練や筋力増強訓練、認知機能訓練などは、NOFP(NOFE、NOFI)やNOBP(NOBE、NOBI)に該当します。これらの訓練は、身体機能や認知機能の改善を直接的な目的としており、作業に焦点が当たっていません。また、機能訓練が主たる方法になるため、実際の作業を行わないことから、作業に根ざしていません。もちろん、関節可動域や筋力、認知機能の改善は、作業遂行の向上につながる可能性がありますが、クライエントにとって意味のある作業に焦点を当てていないし、実際の作業遂行が伴っていないのです。

また、福祉用具の選定や住宅改修なども、NOFP(NOFE、NOFI)やNOBP(NOBE、NOBI)に含まれます。これらの実践は、環境因子の調整を直接的な目的としており、作業との関連性は間接的(二次的)です。福祉用具の選定や住宅改修が作業遂行の向上に寄与することは間違いありませんが、作業療法士の関心の近位焦点は作業ではないし、その方法自体は作業に根ざしていません。

このように、NOFPとNOBPは、作業以外の要因に焦点を当てたり、根ざしたりしている実践であり、作業との関連性は間接的または二次的なものとなります。作業療法士は、こうした実践の意義と限界を理解した上で、状況に応じて適切に活用することが求められます。

作業療法ではNOFP (NOFE、NOFI)、NOBP (NOBE、NOBI)も重要

作業療法では、身体障害、精神障害、発達障害、高齢化など幅広い対象者がおり、作業遂行に影響する要因は多岐にわたります。そのため、作業機能障害を解決するには様々な視点からの評価や介入が必要であり、作業遂行能力を向上させ、作業機能障害を改善するためには多面的な介入アプローチが求められます。また、作業療法士単独では対応できない問題も多く、医療、保健、福祉、教育など他職種との連携が不可欠です。

たとえば、脳卒中の急性期では、麻痺や感覚障害、失語症など身体機能や認知機能の問題が前景に立ちます。こうした時期には、NOFEやNOBEを活用して身体機能や認知機能の評価を行い、NOFIやNOBIを通して麻痺や失語症に対するアプローチを行うことが重要です。作業に直接焦点を当てることは難しくても、作業遂行の基盤となる機能の回復を図ることは欠かせないのです。

また、精神障害領域では、対人関係の問題や家事・就労の困難など、作業遂行の問題が複雑に絡み合っています。こうした領域では、心理・社会的な評価(NOFE・NOBE)や環境調整(NOFI・NOBI)など、作業以外の要因に焦点を当てたアプローチも重要な役割を果たします。作業に直接焦点を当てて根ざさなくても、作業遂行に影響する様々な要因に働きかけることで、問題の解決を図るのです。

このように、作業療法においてはNOFP(NOFE、NOFI)やNOBP(NOBE、NOBI)も重要な役割を果たしています。作業に直接焦点を当てない・根ざさない実践であっても、作業遂行の問題を多角的に理解し、作業遂行能力の向上を支える上で欠かせない視点なのです。作業療法士は、こうした多様なアプローチを身につけ、状況に応じて柔軟に活用していく必要があります。

しかし作業療法の専門性を発揮するにはOFP(OFE、OFI)やOBP(OBE、OBI) が不可欠

一方で、作業に焦点を当て(OFP)、作業に根ざした実践(OBP)が作業療法の独自性を示し、作業の視点から対象者の問題を捉え解決策を探ることが、作業療法の専門家としての作業療法士の強みです。作業は人々の生活の中心であり、健康と幸福に直結するため、作業中心の視点を持つことで作業療法士として対象者の生活の質の向上に貢献できます。

たとえば、脳卒中の回復期では、ADLやIADLなど日常生活における作業遂行の問題が中心となります。こうした時期には、OFP(OFE、OFI)やOBP(OBE、OBI)を活用して作業遂行の状況を評価し、作業の再獲得を図ることが重要です。心身機能構造や環境因子などへのアプローチ(NOFP・NOBP)と並行して、食事や更衣、家事など具体的な作業の練習(OFP・OBP)を行うことで、生活に密着した作業遂行能力の向上を目指すのです。

また、精神障害領域でも、作業に焦点を当てた評価(OFP(OFE、OFI)やOBP(OBE、OBI))を通して、対象者の作業ニーズや作業の意味、作業バランスなどを理解することが欠かせません。そして、作業に根ざした介入(OFI・OBI)により、対象者が望む作業の再建や新たな作業の獲得を支援することが求められます。心理・社会的な問題(NOFP・NOBP)への対応と並行して、作業を通した問題解決(OFP・OBP)を図ることで、対象者の生活の質の向上につなげるのです。

つまり、OFP(OFE、OFI)やOBP(OBE、OBI) OFE、OBE、OFI、OBIを通して作業療法の専門性を発揮することができ、作業に焦点を当て、作業に根ざした実践で他職種にはない価値を提供できるのです。作業中心の視点を持ち、対象者の作業ニーズに寄り添い、作業を通した問題解決を図ることが、作業療法士の重要な役割なのです。

N OFP、OBPとNOFP、NOBPの区別を意識しよう

作業療法の専門性を発揮するためには、OFP、OBPを優先的に実践し、作業中心の視点を持ち、作業に焦点を当て、作業に根ざした実践を心がける必要があります。一方で、状況に応じてNOFP、NOBPを適切に使い分けることも重要ですが、その際は作業中心の視点(OCP)を見失わないように注意が必要です。

たとえば、身体機能の評価(NOFE)や訓練(NOFI)を行う際にも、その機能が作業遂行にどのように関連するのかを意識することが大切です。単に関節可動域や筋力の数値だけを追うのではなく、その機能が対象者の望む作業の実現にどう寄与するのかを考えながら、評価や介入を行うのです。

また、環境調整(NOFI・NOBI)を行う際にも、対象者の作業ニーズや作業の意味を理解した上で、作業遂行を支える環境づくりを目指すことが重要です。単に物理的な環境を整えるだけでなく、対象者の作業の文脈を踏まえた環境調整を行うことで、作業に根ざした支援につなげるのです。

このように、NOFP、NOBPを活用する際にも、常に作業中心の視点を持ち続けることが求められます。OFP、OBPとの区別を意識し、作業との関連性を探りながら、評価や介入を行うことが大切なのです。

OFP、OBPとNOFP、NOBPの区別を意識することで、作業療法の専門性を高めることができます。作業中心の視点(OCP)を持ちつつ、幅広いアプローチを身につけることが重要なのです。

まとめ

本論では、作業に焦点を当てない・根ざさない実践(NOFP、NOBP)について解説しました。作業療法の専門性の基盤は、OFP、OBPですが、一方で、作業療法ではNOFP、NOBPも状況に応じて活用する必要があり、幅広いアプローチを持つことで対象者のニーズに柔軟に対応できます。

ただし、多様なアプローチを活用する際にも、作業中心の視点を忘れずに持ち続け、作業の視点から対象者の問題を捉え解決策を探ることが大切です。NOFP、NOBPを活用する際にも、常に作業との関連性を意識し、作業遂行の向上につなげるような評価や介入を行うことが求められます。

文献

京極真,藤本一博,小川真寛・編:OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書.メジカルビュー社,2024

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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