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作業療法の対象になる人は障害がある方だけではない件【注意点あり】

京極真
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本記事では「作業療法の対象になるのは、障害をもつ人びとだけですか。もっと幅広い人たちが対象になりますか。作業療法の対象を知りたいです」という疑問にお答えします

作業療法の対象になる人は障害がある方だけではない件

世界作業療法士連盟による作業療法の定義

世界作業療法士連盟による作業療法の定義は次の通りです。

Occupational therapy is a client-centred health profession concerned with promoting health and well being through occupation. The primary goal of occupational therapy is to enable people to participate in the activities of everyday life.

引用元

つまり、作業療法は作業を通して健康と幸福を増進するものであり、日々の生活に参加できるようにするアプローチだと理解できます。

作業療法の対象については、以下の文章から理解できます。

Occupational therapists achieve this outcome by working with people and communities to enhance their ability to engage in the occupations they want to, need to, or are expected to do, or by modifying the occupation or the environment to better support their occupational engagement.

引用元

ここから考えると、作業療法の対象は「したいこと」「するべきこと」「することが期待されていること」に支援が必要な人びとだ、といえるでしょう。

ここに、障害の有無で作業療法の対象をきりわける、という発想はないです。

日本作業療法士協会の作業療法の定義

次に日本作業療法士協会の作業療法の定義を確認しましょう。

作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。

引用元

この定義の注釈には次のように書かれています。

作業療法の対象となる人々とは、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団を指す。

引用元

つまり、この定義にしたがえば、作業療法の対象になる人びとは以下の通りです。

作業療法の対象になる人びと
  • 身体障害者
  • 精神障害者
  • 発達障害者
  • 高齢期障害者
  • 日々の作業に困難がある、またはそれが予測される者(個人、集団)

日々の作業に困難がある、またはそれが予測される者は、いわゆる医学的な疾患・障害をもたない人びとを指しているといえます。

日々の作業に困難があるという状態は、作業的問題、作業遂行障害、作業遂行機能障害、作業不適応、作業機能障害などと表すことができます。

ぼくは作業機能障害という概念が、日々の作業に困難があるという状態を的確に反映していると考えていますが、その話はまた別の機会にやります。

さて、こうした日々の作業に困難があるという状態は、疾患・障害の有無にかかわらず体験することが明らかになっています。

したがって、作業療法の対象は障害者も健常者(作業機能障害を体験している健常者)も含まれると理解できるでしょう。

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作業療法の対象が広い理由と例

作業は生活を構成しているすべての営み

作業療法の対象は疾患・障害をもつ人びとに加えて、日々の作業に困難があったり、それが予想される人びとを含みます。

なぜ作業療法の対象はこれほど広いのでしょうか。

ポイントは「作業」にあります。

作業というと、一般には単純労働をイメージしがちです。

けど、作業療法でいう作業は人間の経験一般です。

つまり、人間が体験していることすべてが作業なんです。

日本作業療法士協会の定義の脚注にもう少し詳しい説明があります。

作業には、日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる

引用元

つまり、基本的日常生活活動(整容、排泄など)、手段的日常生活活動(家事、買い物など)、仕事、遊び/レジャー、教育、社会参加、休息、睡眠など、作業はぼくたちの生活を構成しているすべての営みを表す概念だと言えます。

そして重要なことは、作業は誰でもやっているということです。

障害があってもなくても、誰でも作業している。

作業療法は、その作業に問題がある、またはそれが予想される人びとを含みます。

だから、作業療法は可能性として、人間だったら誰でも対象になりえるものなのです。

日々の作業で生じる問題の例

先に示した「日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される」という状態は、ぼくがちの生活を構成している営みの中で体験する問題です。

例えば、以下のような問題がそれに該当します。

障害者の場合

まずは医学的な疾患・障害をもつ人びとの例から示します。

障害者の場合
  • 脳血管疾患があるために、両手動作が難しくなって、今までのように家事ができない
  • 統合失調症の影響で、物事に柔軟に対応しがたく、職場の人間関係がギクシャクしている
  • 脳性麻痺があるために、自分の状態を維持するセルフケアをうまくできない
  • 認知症の影響で長年続けていた趣味活動にかかわれない

健常者の場合

次に明らかな医学的疾患・障害をもたないけども、日々の作業に困難が生じている健常者の例を示します。

健常者の場合
  • 仕事が忙しすぎて、他にやりたいことがあるのにできない
  • 日々の生活が退屈すぎて、気力がわかない
  • やるべきことがあるけども、それに取り組む機会がない
  • 自分の人生なのに自分でやることを決めることができない

作業療法士は作業的視点で解釈する

このようにみてみると、日々の作業で生じる困難は、障害の有無にかかわらず生じている、という意味が理解できるかと思います。

例えば、「認知症の影響で長年続けていた趣味活動にかかわれない」というのは、障害をもつ人びとが体験する日々の作業で生じる問題です。

他方、「自分の人生なのに自分で進むべき道を決めることができない」という問題は、障害があってもなくても体験する問題です。

具体的に言うと、例えば、本当は企画の仕事がしたいのに営業に配属されてしまった、とか、本当は哲学を学びたかったのに親の反対にあって仕方なしに医療系の学部に進学した、などなど。

こういう問題は、「日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される人」に該当しうるものでして、それによって健康と幸福にネガティブな影響がでていたら作業療法の対象になりえるものです。

作業療法士は作業療法の専門家であるがゆえに、生活と人生に軸足をおいた作業的視点で森羅万象あらゆる事象を解釈していきます。

その結果として、作業療法は幅広い対象に活用できるものとして機能しうるのです。

作業療法の対象に関する注意点

ただし、注意点があります。

作業療法士の専門職団体が示す定義から考えると、作業療法の対象は非常に幅広いです。

けど、法律を前提にすると、作業療法の対象は限られた方々になります。

現在のところ作業療法の対象の理解は専門職団体と法律に差が生じているという理解が必要です。

例えば「理学療法士及び作業療法士法」を前提に考えると、作業療法の対象は限られた方々になります。

この法律で「作業療法」とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主として その応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。

引用元

ここで明記されているように、作業療法の対象は「身体又は精神に障害のある者」に限局されています。

この法律は1965年に公布されましたが、実のところ、この時代の世界の作業療法は機械論パラダイムが支配的でした。

ぼくの理解では、本来の作業療法とは異なるものが日本に導入されたあおりで、ちょっと偏った内容になってしまっています。

つまり、混乱期にあった作業療法が日本に直輸入されているので、法律も作業療法らしさが反映されていない内容になっているのです。

日本は一度出した法律をなかなか変えないので、作業療法の可能性を押し殺した状態はまだまだしばらく続くでしょう。

作業療法の可能性を押し殺した状態は、国民一般にとっても機会喪失なわけですから、今後、専門職団体と法律の差を埋める努力が必要になるはずです。

まとめ:作業療法の対象になる人は障害がある方だけではない件

本記事では「作業療法の対象になるのは、障害をもつ人びとだけですか。もっと幅広い人たちが対象になりますか。作業療法の対象を知りたいです」という疑問にお答えしました。

本記事で紹介した作業療法の対象になる人びとは以下の通りです。

作業療法の対象になる人びと
  • 身体障害者
  • 精神障害者
  • 発達障害者
  • 高齢期障害者
  • 日々の作業に困難がある、またはそれが予測される者(個人、集団)

ただし、法律上の作業療法の対象は「身体又は精神に障害のある者」です。

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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