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作業療法
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海外の作業療法の定義を調べて、日本の作業療法の新しい定義と比較してみた

Makoto KYOUGOKU
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京極真
京極真

本記事では、日本と海外の作業療法の定義をサクッと比較しています

本記事のポイント
  • どこの国も「作業を通して健康と幸福を高める」という点で共通した定義です
  • 日本作業療法士協会が提示した新しい作業療法の定義は世界的にみてもイケてます

世界各国の作業療法の定義を比較する方法

資料は以下です(他にもっとよいのがあれば教えてください)。

取り上げた国は以下の通りです。

  • ケニア
  • イスラエル
  • タイ
  • スイス
  • オーストラリア
  • フィンランド
  • ドイツ
  • スウェーデン
  • オランダ

留意点は2つあります。

1つは、各国の事情まで調べていないことです。

つまり、上記の資料からのみ比較しているので、的外れなことを書いている可能性があります。

もう1つは、各国の定義は長短があったので、最初に1文またはそれに続く文章のみ引用しています。

詳細は、各自で上記の資料から確認してください。

なお、アメリカ、カナダ、イギリスなど日本によく紹介されている国の定義はあえて割愛しています。

日本の新しい作業療法の定義

まず、今回改訂された我が国の作業療法の新しい定義を示しておきます。

作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す

主だった重要ポイントは、

  • 作業療法の恩恵を受けられる人が、障害者とその予備群から、一般の人々へと拡張された
  • 人々にとって意味のある作業を通して健康と幸福を促進すると明記された
  • 作業療法の領域が医療保健福祉から教育、職業まで大幅に拡張された

などです。

日本と世界の作業療法の定義の比較

新しい作業療法の定義の特徴を理解するには、世界の作業療法の定義と比較検討するのがセオリーです。

ここでは上記の9カ国に加えて、世界作業療法士連盟の定義も紹介しつつ、日本の作業療法の新しい定義と対比させていきます。

世界作業療法士連盟

まずはWFOTによる作業療法の定義です。

Occupational therapy is a client-centred health profession concerned with promoting health and well being through occupation.

【訳文】作業療法は作業を通して健康と幸福を促進することに関心をもつクライエント中心の専門職である。

これは定番中の定番。

WFOTの定義と比べると、日本の作業療法の新しい作業療法の定義は世界の時流にのっていることが理解できると思います。

ただ、WFOTではクライエント中心と明記しており、作業療法の立場がより鮮明になっている印象を受けます。

ケニア

Occupational Therapy is a health and rehabilitation profession that provide services to individuals of all ages who have physical, developmental, emotional and/or social deficits.

【訳文】作業療法は身体的、発達的、感情的、社会的障害をもつすべての世代の個人にサービスを提供する健康とリハビリテーションの専門職である。

ケニアの作業療法の定義は、障害をもつあらゆる人々に貢献するぞ、という気概を感じますね。

これに比べると、日本の作業療法の新定義は障害の有無に関係なく作業を通して健康と幸福に資すると打ち出しているので、そのぶん適用範囲が広くなるというメリットがあるように思います。

イスラエル

Occupational Therapy is a health-care profession which undertakes treatment, rehabilitation and education.

【訳文】作業療法は治療、リハビリテーション、教育を行うヘルスケア専門職である。それは医科学、社会科学、行動科学、作業科学から知識を引き出す。

イスラエルの作業療法の定義は、作業療法の知識の源泉を示しつつ、専門職として何を行うのかを明記しているところに特徴があるように思いました。

世界最古の作業療法の定義を示した書籍でも、作業療法は治療と教育を行うと位置づけており、イスラエルの定義はその伝統を踏襲しているかのように見えなくもないところがよいですね。

これに比べると、日本の新しい作業療法の定義は「何のために?」を明記しているところに特徴があるように思いました。

タイ

Occupational Therapy is an intervention concern with performance of individuals who has physical disabilities, mental disabilities, learning disability and developmental disabilities.
【訳文】作業療法は身体障害、精神障害、学習障害、発達障害をもつ個人の遂行に関する介入に関心がある。

ケニアと同様に、タイの作業療法の定義も障害をもつ人々のために貢献するぞ、という気概を感じますね。

すごいなぁと思ったのは、「遂行」にきちんと焦点を当てているところです。

これに比べると、日本の作業療法の新定義は適用範囲の広さ、および作業に焦点を当てると明記しているところに特徴があるなぁと思いました。

スイス

Occupational therapy focuses on the person’s ability to perform occupations and contributes to improvement of health and enhancement of quality of life.
【訳文】作業療法は作業を遂行する個人の能力に焦点を当て、健康の改善と生活の質の向上に貢献する。

スイスの定義は、作業療法の目的と方法がシンプルに規定されているように感じました。

日本の作業療法の新定義は、作業療法が実践される領域に触れているところに特徴がありますね。

また、治療、指導、援助という方法を明記しているところも、日本の作業療法の新定義の特徴だと思いました。

オーストラリア

Occupational Therapy is a health related profession using selected activity to prevent and overcome many physical, emotional or social disabilities in people of all ages.

【訳文】作業療法はあらゆる世代の人々の多くの身体的、情緒的、または社会的障害を予防、克服するために選択された活動を使用する健康関連専門職である。

何らかの障害あるいはそれが予見される人々のために貢献するぞ、という気概を感じます。

ただ、Occupational Therapy Australiaを見ると、作業療法の目的は、人々が日常生活の作業に参加できるようにすることだ、と明記されています。

つまり、障害の有無に関係なく作業に問題のある人々を対象にしているっぽいので、上記の定義は古いのかもしれません。

WFOTの資料上記のサイトを合わせると、オーストラリアの定義は、日本の作業療法の新定義に親和性のある考え方だと思いました。

フィンランド

Occupational therapy is client-oriented rehabilitation. In occupational therapy, the client is the expert in his/her own life, and the therapist is the expert of the therapeutic occupation.

【訳文】作業療法はクライエント指向のリハビリテーションである。クライエントは自身の人生の専門家であり、セラピストは治療的作業の専門家である。

フィンランドの定義はクライエント中心の作業療法を明確に示していますね。

その点、日本の作業療法の新定義はもうちょいマイルドです。

また、フィンランドのそれはリハビリテーションという理念に作業療法を位置づけており、この点も特徴的かなぁと思いました。

ドイツ

Occupational Therapy supports and assists people of all ages who are limited or in danger of becoming limited in their ability to participate in their usual activities.

【訳文】作業療法は日々の活動に参加する能力に制限がある、または制限される危険性のあるすべての世代の人々を支援、援助するものである。

作業療法は何らかの障害あるいはそれが予見される人々のために貢献するものだぞ、という気概を感じますね。

これに比べて、日本の作業療法の新定義は障害の有無に関係なく作業を通して健康と幸福に資すると示しているので、今後より貢献できる範囲を広げられる可能性を感じました。

スウェーデン

The academic discipline Occupational Therapy comprehends knowledge about people’s everyday occupations in relation to participation and health.
【訳文】作業療法は参加と健康に関連する人々の日々の作業に関する知識を包含する学問領域である。

日本の作業療法の新定義は「健康と幸福」を打ち出していますが、こちらは「参加と健康」としている点に特徴がありますね。

それによって、作業療法は人々の社会参加を支援するという位置づけが理解しやすいのではないかと思いました。

オランダ

Occupational Therapy focuses on enabling occupation, in order to realize participation in daily and societal life, for the benefit of health and well being.
【訳文】作業療法は健康と幸福をもたらすために、日常生活と社会生活への参加を実現するために作業の可能化に焦点化する。

こちらの定義は、作業の可能化というカナダ作業療法士協会の方針を全面的に採用しているところに特徴があると思いました。

また、参加の実現を押し出しているところにも、興味深い特徴がありますね。

日本の作業療法の新定義は、この定義のモチーフを共有しつつ、作業療法の実践領域に言及しているところに特徴があるかなぁ。

まとめ:海外の作業療法の定義を調べて、日本の作業療法の新しい定義と比較してみた

以上、サクッと比較してきましたが、こうしてみてみると、日本の作業療法の新定義はなかなかイケているなぁと感じました。

詳細な検討は、気が向けば研究論文でやってみたいと思いますが、他の人がやってくれるとうれしいなぁとも思います。

最後に改めて、日本の作業療法の新定義を示しておきましょう。

作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す

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著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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