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科学を論じたいなら、科学論の理解が不可欠な話

京極真
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本記事では「質的研究のような『主観にたよった手法は非科学的だ』と言われました。私は科学って基礎実験やランダム化比較試験などの客観的な知識を明らかにする手法に限らないと思います。科学を論じるにはどうしたらよいですか」という疑問にお答えします

科学を論じたいなら、科学論の理解が不可欠な話

何が科学なのかは、前提にする科学論によって決まる

結論から言うと、科学を論じたいなら、科学論の理解が不可欠です。

理由は、科学論の種類によって、何をもって科学とするのかが変わってくるからです。

科学論というのは、そもそも「科学って何だろう?」という問いのもと、科学の条件を解き明かしていく領域であります。

つまり、科学論とは、ぼくたちが「科学」と呼んでいる営為が、どういった要件のもとで成立しているのかを論じる分野だと思っておけばよいです。

「定量的に評価できる手法こそが科学だ」という主張も、そう言っている本人が自覚しているかどうかは別にして、実のところ特定の科学論に依拠したものになっています。

何をもって科学とするのかは、前提にある科学論によって変わります。

なので、科学かどうかを論じたいなら科学論の理解が不可欠なんです。

科学論を知らずに科学を論じると議論がめちゃ浅くなる

科学論を知らずに科学を論じると、超薄々の議論になってしまいます。

ちょっと考えたらわかることですが、「科学って何だろう?」という問いのもとで蓄積された膨大な議論を知らずに、「○○こそが科学だ」とか主張したってたいして深いところまで議論が進みません。

一部の本当の天才を除いて、徒手空拳で考えたって突き抜けた理を展開できるわけないです。

例えば、科学とは「客観的な知識を明らかにできる手法に限る」という主張は、そう主張している人が理解しているかどうかは別にしても、実際には客観主義、要素還元主義、機械論的世界観といった科学論にべったり依拠しています。

では、それらの科学論に依拠しているから、この主張が正当化できるかというと無理なんです。

というのも、これまでの膨大な研究を通して、客観主義、要素還元主義、機械論的世界観といった科学論は原理的に破綻していることがわかっているからです。

それゆえ、科学とは「客観的な知識を明らかにできる手法に限る」という主張自体が、実のところ完全に底が抜けていると言えます。

科学論を知らずに科学を論じると、すでに死に体の主張を平気でやっちゃうことになるので、議論がめちゃ浅いものになってしまうわけです。

科学論の展開

科学論とひと言で表しても、いろいろな展開があります。

本記事ではわかりやすくするために、3つの展開としてさくっと整理します。

第1世代:モダニズム

最も古くからある科学論は、科学とは客観的な知識を明らかにすることだというものでして、例えば以下のものが含まれます。

第1世代の科学論
  • 客観主義
  • 要素還元主義
  • 帰納主義
  • 反証主義
  • 論理実証主義
  • 機械論的世界観 など

これらはそれぞれ主張の力点が異なり、ときに相互に対立する主張を展開しています。

しかし最大公約数的に見ると、これらには主体とは独立自存した外部実在を前提にしつつ、科学者が主観を排して丹念に観察事実の積み重ねていくことによって、客観的知識に到達できると考えるところに共通点があります。

ところが、主体とは独立自存した外部実在という前提そのものに原理的な欠陥があるため、これによって科学という営為を基礎づけることは困難だというところに議論が落ちついています。

第2世代:ポストモダニズム

次に、第1世代の科学論に対する反省から、第2世代の科学論が台頭してきており、例えば以下が含まれます。

第2世代の科学論
  • 構成主義
  • 社会的構築主義
  • システム論
  • ネオ・プラグマティズム
  • 解釈学
  • 生命論的世界観 など

これらもまたそれぞれ異なる主張を展開しており、ときに対立しあっています。

けども、大きな結び目を見れば、知識とは主体から独立自存した外部実在に属するものではなく、主体が能動的に構成するものであって、科学者は客観的知識という一元的な知を追うのではなく、生きたシステムとして構成されうる多元的な知を探求する役割を担うという共通点を見いだすことができます。

ところが、これらにもいろいろ問題点があって、その1つは相対化に留まってしまうというものです。

これらは、客観的な知識を探求することこそが科学だという考え方の反省から生まれましたけども、その結果として相対化に帰結してしまって科学を基礎づける枠組みとして上手く機能しないという問題があるわけです。

第3世代:新しい科学論

そうした問題を克服するために、新しい科学論がいろいろ議論が蓄積されつつあります。

第3世代の化学論
  • 認識論的現実主義
  • 反還元主義
  • 科学的実在論
  • 新実在論
  • 構造主義科学論
  • 構造構成主義 など

これらもそれぞれ主張は異なりますが、大きな視点でとらえれば、第1世代と第2世代の信念対立を克服しつつ、科学という営為をより適したかたちで言い当てようという志向性をもっているという点で共通しているかと思われます。

ぼくは構造主義科学論→構造構成主義が最も妥当だと考えているのですけどね。

科学論を学べるおすすめ入門本【厳選3冊】

ぼくの独断を偏見で選ぶと、科学論を学べるおすすめ入門本は以下の3冊です。

他にもいろいろ良書がそろっているので、まずは以下の本を読みつつ、関心にそっていろんな本を読んでいったら理解が深まると思います。

おすすめ本
  • 科学哲学入門―科学の方法・科学の目的
  • 改訂新版 科学論の展開
  • 構造主義科学論の冒険

科学哲学入門―科学の方法・科学の目的

科学論の変遷を追いながら、科学の特徴を体系的に論じた本です。

「量的研究=科学」とか「科学=客観的な知識の探求」と素朴に思っている人は本書で科学論の基本的な理解を深めると良いです。

改訂新版 科学論の展開

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科学をめぐる論争を押さえつつ、ベイズなどの新しい動向もまとめて学べる本です。

従来の科学論にどんな問題があって、どのような議論が行われてきたのかを理解できます。

構造主義科学論の冒険

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講談社
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従来の科学論の意義と限界を整理し、新しい科学論を示しています。

ぼくは構造主義科学論から構造構成主義への展開に可能性を感じているので、科学について論じたい人にとって本書は必読図書だと考えています。

まとめ:科学を論じたいなら、科学論の理解が不可欠な話

本記事では「質的研究のような『主観にたよった手法は非科学的だ』と言われました。私は科学って基礎実験やランダム化比較試験などの客観的な知識を明らかにする手法に限らないと思います。科学を論じるにはどうしたらよいですか」という疑問にお答えしました。

結論をいうと、科学を論じたいならば科学論の理解が不可欠です。

ただし、科学とひと言でいっても、前提にある科学論によって考え方がだいぶ異なってきますので、これまでの議論を押さえつつ求められる科学の理解の仕方を把握していくとよいです。

なお、「科学論って哲学やん!そもそも哲学がよくわからん」という人は以下の記事をどうぞです。

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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