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【解説】医療におけるアートとサイエンスの源流にある哲学

京極真
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本記事では「医療はアートであり、サイエンスであると言いますが、なかには両者を対立軸で捉える人もいます。そもそもアートとサイエンスってどんな哲学を背景にしているのですか?」という疑問にお答えします

こんな方におすすめ
  • アートとサイエンスの元の考え方を理解したい
  • アートとサイエンスを深く理解するための文献を知りたい

医療におけるアートとサイエンスの源流にいる哲学者

結論から言うと、アートとサイエンスという考え方の源流にいる哲学者は以下の方々です。

アートとサイエンスという考え方の源流にいる哲学者
  • ソクラテス
  • プラトン
  • アリストテレス

上記の方々は、全人類にとっての教師ですから、ほとんどの方がご存じかと思います。

一応、簡単に紹介しておきますと、ソクラテスはプラトンの師匠、プラトンはアリストテレスの師匠です。

ソクラテス自身は著作を残しておらず、プラトンの著作を通してその考え方を知ることができます。

そのため、ソクラテスとプラトンの考え方の違いは線引きしがたいところがあります。

ただ、ヘーゲルによると、ソクラテスは「意識こそは世界の本質」という原理を明らかにし、プラトンはその「原理をもとに設計と開発を行った」という違いがあります(参考:哲学史講義Ⅱ)。

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他方、アリストテレスはたくさんの著作を残しており、ソクラテスやプラトンの考え方とは異なる独自の体系を構築し、さまざまな異議を申し立てています。

アートとサイエンスという考え方の源流は、このお三方の議論に求めることができます。

アートとサイエンスの源流にある哲学

アートとサイエンスは、上記の3名において、アート=テクネー、サイエンス=エピステーメーという概念で説明されています。

さくっと解説すると以下の通りです。

ソクラテスとプラトン

プラトンは『ゴルギアス』という著作で、ソクラテスを通してテクネー(アート)について論じています。

それによると、テクネー(アート)は常に対象にとっての「善い」を目指して行われるものだということです。

つまり、テクネー(アート)は、対象にとって利益をもたらすためのものだというのです。

それゆえ、テクネー(アート)は対象に関わる本質的な知識を基盤にする必要があって、何らかの問題に対処するにあたってはその原因、理由、対処の根拠を説明できる必要があると論じています。

ここでいう、本質的な知識というのは、いわゆる学問的知識を意味しており、テクネー(アート)という考え方は源流からサイエンスとセットで考えられていることがわかります。

他方、プラトンは対象に関わる学問的知識に欠いている実践を痛烈に批判しています。

そうした実践は、自身の憶測を手がかりに、無理論、無計算、勘などにたよった当てずっぽうであって、対象にとっての利益をもたらすものではないというのです。

そうした点をふまえると、「エビデンスがないからアートでやる」とか「アートとサイエンスは対立している」などといった主張は、アートに対する単なる誤解であると言えるでしょう。

アートはその概念が生まれたときから、サイエンスとセットだったわけですから。

ポイント
  • アートの源流にある哲学はテクネーである
  • テクネーは対象にとっての最善を目指す技術である
  • テクネーは対象に関わる本質的知識(サイエンス)を基盤に実践するものである

アリストテレス

次に、アリストテレスです。

彼は『ニコマコス倫理学』などでテクネーについて哲学しています。

それによると、アリストテレスは人間が本質を認識するための方法のひとつにテクネーをおいていることがわかります。

本質を認識する5つの方法
  • テクネー(アート)
  • エピステーメー(サイエンス)
  • フロネーシス(知慮)
  • ソフィア(叡智)
  • ヌース(直感)

つまり、アリストテレスにおいてもテクネー(アート)とエピステーメー(サイエンス)は対立するものではなく、両者はともに人間の能力の一種として考えられていたわけです。

エピステーメーは学問的知識を意味しており、理性によって確かに認識された科学的な知見を表しています。

科学的な知見というのは,必然的に存在しているような法則(数学,論議学など)を意味しています。

一方、テクネーは「あらゆるテクネーは事物の生成に関わる」ものであって、人間が何かを生成するような営為として位置づけています。.

ここで対立するのは、個別体験に基づいた単なる憶測であるといえます。

だから、エビデンスがないからといって実践者の思い込みでやっていることがあれば、むしろそれがアートとサイエンスによって批判される対象になるでしょう。

ポイント
  • アートはテクネー、サイエンスはエピステーメーという哲学を基礎にもつ
  • 両者は他の能力とあわせて、人間がほんとうを知るために欠かせない
  • アートとサイエンスは対立するものではなく、階層的な関係になっている

アートとサイエンスの源流にある哲学を学べるおすすめ本【厳選2冊】

本記事ではさくっと解説しましたが、ソクラテス、プラトン、アリストテレスの解釈は膨大にあるので、医療におけるアートとサイエンスという考え方をしっかり理解したい人はぜひ直に文献を紐解いてください。

アートサイエンスの哲学を学べるおすすめ本
  • ゴルギアス
  • ニコマコス倫理学

ゴルギアス

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アートについて考えたい人は必読。

医術についても論じており、それとアートをどうつなげるかも考える土台になります。

本書で展開されている、アートは対象にとっての利益を最大化するものであり、そのために確かな知識を活用する、という視点は現代のEBMに通じるようにぼくは思っています。

ニコマコス倫理学

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こちらも必読書。

人間にとってもっとも重要なのは楽しく生きることだという考えのもとで体系化された倫理学の古典です。

アートとサイエンスについて理解したい人は読むべしです。

まとめ:医療におけるアートとサイエンスの源流にある哲学

本記事では「医療はアートであり、サイエンスであると言いますが、なかには両者を対立軸で捉える人もいます。そもそもアートとサイエンスってどんな哲学を背景にしているのですか?」という疑問にお答えしました。

アートとサイエンスの源流には、全人類の教師であるお三方の哲学があります。

アートとサイエンスという考え方の源流にいる哲学者
  • ソクラテス
  • プラトン
  • アリストテレス

アートとサイエンスを対立軸でとらえたり、サイエンスがないからアートでといった理解は、元々の考えかから逸脱しているところがあります。

2400年以上前から、両方必要だという議論で展開してきたという理解をもつようにしましょう。

なお、ソクラテス、プラトン、アリストテレス以前の議論を知りたい人は以下の記事でおすすめ文献を解説しているので、そちらもあわせてご覧ください。

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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