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作業療法
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【必読】作業療法における作業の哲学的基盤を学べる本【4冊】

京極真
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本記事では「作業という概念は哲学由来と聞きました。作業を通して健康と幸福を高めるために、作業について深く強く考えられるようになりたいので、作業の哲学的基盤を知りたいです。でも、どの本を読めばよいかわからないので教えてください」という疑問にお答えします

  • 作業療法における作業の哲学的基盤を理解するうえで必読書は4冊です
  • 基本は翻訳された書籍を読めばよいです
  • けど、作業療法ではoccupation=作業という訳語で統一されていますが、哲学では複数の訳語が当てられています
  • なので、最終的には原著で確認してください

作業療法における作業の哲学的基盤を理解しないデメリット

哲学とは、論理的に考える限りにおいて共通了解可能な理路を担保する営為です。

つまり、立場が違っても了解できる考え方を作るのが哲学の役割です。

したがって、作業の哲学的基盤を理解しないと、いつまでたっても「作業って何?」という問いの周辺をフラフラし続けることになります。

堂々巡りの議論に陥りたくなければ、作業の哲学的基盤から理解する必要があるのです。

作業療法は哲学のアイデアを発展的に継承している

作業の哲学的基盤を理解すべき大きな理由は、もうひとつあります。

現代において、作業療法は医療保健福祉の1分野です。

また、日本では理学療法との区別がつかない人が多く、医療者の中でも「理学・作業療法(士)」などのように、両者がまるで双子の兄弟姉妹かのように表記する人が少なくありません。

しかし、両者は歴史も目的も方法も発生から違うため、両者を混同する表記は「トラとライオンは同じネコ科なんだからネコでいいやん」っていうぐらい暴論です。

その違いは、作業療法は哲学、理学療法は医学をルーツにもつという史実からはじまります。

作業療法における作業(occupation)はもともと哲学で見いだされた概念であり、作業療法は哲学由来の作業という考え方と医療保健福祉を結びつけることによってスタートしているのです。

なので、作業療法とは作業を通して健康と幸福を促進するというときに、「そもそも作業って何だろう?」とふと立ち止まることがあるならば哲学までさかのぼって理解する必要があるわけです。

でなければ、その理解は表面的なものにとどまる他ありません。

作業療法における作業の哲学的基盤を学べる本

作業の哲学的基盤を詳述している主だった文献は次の4冊です。

おすすめ本
  • その①:学校と社会
  • その②:思考の方法
  • その③:民主主義と教育
  • その④:経験と教育

著者は哲学者のジョン・デューイです。

ジョン・デューイは作業療法の創始者であるスーザン・トレーシー、アドルフ・マイヤー、エレノア・クラーク・スレイグルたちに直に大きな影響を与えた人物です。

彼は初期から教育哲学という文脈の中で、知識の本質、行為としての知識、学習に対する興味の重要性などについて論述しており、適切な作業=occupationが子どもの学習と発達を支えると議論してきました。

様々な文献で作業の重要性を議論してきましたが、上記の文献はそれを体系的に論じており、作業の哲学的基盤を学ぶには恰好の書籍だといえます。

なお、あらかじめ断っておくと、以下で紹介する哲学書だけでは、作業療法を根源から理解するには至りません。

もうちょい視点を広げて、さまざまな哲学書を読む必要があります。

作業療法における作業の哲学的基盤を学べる本その①:学校と社会

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本書は1899年に出版された教育における作業の哲学と実践を詳述した名著です。

世界で最も古い作業療法を体系的に論じた文献は1910年ですから、それよりも10年ちょい前にでたことになります。

重要なことは、本書で示された作業の定義がこの世界最古の作業療法の教科書に直接引用され、作業療法における作業の捉え方を方向づけた点です。

本書で彼が示した作業を通した教育は、子たちが共有する興味を踏まえつつ、没頭しながら協同的にとりくめる学習活動(=作業)を提供するものでした。

本書を読めば、作業療法で重視されている作業に対する動機、日々の生活パターン、生活を支える心身機能、作業に対する環境の影響などが、哲学の世界でかなりしっかり議論されていることが理解できると思います。

作業療法における作業の哲学的基盤を学べる本その②:思考の方法

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本書は1910年に出版されました。

本書は上記の「学校と社会」の議論を踏まえつつも、子どもたちが作業で行う問題解決のプロセスを探求として位置づけているところに特徴があります。

探求とは以下のプロセスで行われます。

  • 不確定な状況、
  • 解くべき問題の設定
  • 問題を解決するための仮説の生成
  • それがうまくいくか否かを推論することで仮説の洗練
  • 実際に実験を行うことによって問題が解決できるかどうかの確認

本書において、作業は学校という教育の場で探求を行うために活用されます。

また、人類の歴史を確認すると、科学と技術は作業から発展したと位置づけており、作業が人類の持続可能性に欠かせないものであると考えられていたことがわかります。

なお、本書は現在絶版で入手困難なので、図書館で借りて読むとよいです。

作業療法における作業の哲学的基盤を学べる本その③:民主主義と教育

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本書は1916年に出版されました。

ここでデューイは、産業革命以降に社会が急速に変化しており、社会が目指すべき方向性は民主主義であると論じ、作業を通した教育は民主主義を実現するために不可欠であると論証しています。

つまり、作業には人々の成長と自由を実質化する機能があり、作業を通した教育によって人々が協力しあいながら問題に対処し、自由で平等な社会を実現していくことができると位置づけたのです。

また、作業は人間の生活を意味し、あらゆる経験の範囲を意味しているとし、作業という概念を通して人間に生活の再構築をめがけていたと理解することができます。

かなりぶ厚い本ですが、各章の最初と最後に議論のまとめがあるので、まずはそこから読むとよいかもしれません。

作業療法における作業の哲学的基盤を学べる本その④:経験と教育

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本書は1938年に出版され、デューイの教育哲学の集大成に位置づけられています。

本書は上記の3冊と違って、実は作業という概念を使用していません。

その代わりに、民主主義と教育で作業と同等に位置づけられた経験の概念を使って、教育を哲学していきます。

なので、一見すると作業について論じていないかのように感じると思いますが、上記3冊を読んでから本書を読めば、経験という概念の向こう側に作業があると理解できると思います。

本書では作業という概念を使用していないのに、作業療法における作業の哲学的基盤を学ぶため本に本書を挙げる理由は、ここで経験の原理的な議論を展開しており、それが作業の強靱な基礎づけに使えるからです。

作業科学では、本書はトランザクションの原理に着目するかたちで引用されていますが、ぼくらはむしろこれを作業の基礎づけの議論として理解した方がいいと考えています。

留意点

以上、作業療法における作業の哲学的基盤を学ぶ本を紹介しました。

ただし、これらの翻訳書はoccupation=作業というようには統一的に訳されていない点に注意が必要です。

ぼくが確認しただけでも、occupationは作業の他に仕事、職業、業務などに訳されています。

しかも、1冊の本の中で複数の訳語がある場合もあります。

また、例えばworkも作業、仕事などに訳されています。

なので、普通に翻訳書を読んだら、どこでoccupationを論じているのかわからなくなると思います。

この問題を克服するには、最終的には原著を読む必要があるので、その点はご留意ください。

まとめ

本記事では「作業の哲学的基盤を理解するには、どの本を読めばよいかわからないので教えてください」という疑問にお答えしました。

作業療法における作業は哲学由来の概念です。

作業の哲学的基盤を理解することによって、「作業ってなに?」という問いで泥沼のアイデンティティクライシスに陥らずにすみます。

最低でもここで紹介した書籍を読むと、作業療法における作業の背景にある哲学は理解できると思います。

これらを読んだら、現代の作業療法における作業を理解するための本を読む必要があります。

これについては、また別の記事で紹介できればと思います。

著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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