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【必読】作業療法理論のweb教科書

Makoto KYOUGOKU
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京極真
京極真

本記事は「作業療法理論について手軽に学びたい」という希望にお答えするために作成しました

本記事のポイント
  • 作業療法と作業科学に関する理論の概要を理解できる
  • 国内外の様々な作業療法理論を理解できる

作業療法には理論が必要

作業療法は哲学を始発点にもつアプローチです。

哲学とは、みんなが納得できる考え方を探求するものです。

それが始発点にあるため、作業療法は考え方を理解することが、具体的なアプローチに直につながるわけです。

現代作業療法の考え方をまとめたものは、理論、モデル、実践モデル、概念的枠組などと呼ばれます。

厳密に言うと、これらの概念はそれぞれちょっとずつ違うのですが、言葉と言葉の関係形式という点では同型であり、ここでは単純化するためにまとめて「理論」と表すことにします。

なので、この記事で理論という場合、モデル、実践モデル、概念的枠組なども含まれる点にご注意ください。

話題を戻しますが、作業療法は考え方の理解が実際のアプローチに結びつく領域です。

つまり、思考と行動に切れ目がない。

この特徴は、作業療法の哲学的基盤であるプラグマティズムともまったく符合します。

考えることは行動することであり、行動することは考えることです。

作業療法を実践するためには、どの領域であれ理論の理解が必要なのです。

作業療法理論の哲学的基盤

作業療法は哲学をベースにしていますが、それは一枚岩ではありません。

ざっくりと紹介するだけでも、作業療法には下表のような哲学的基盤があります。

作業療法理論はこうした哲学的基盤を源泉にしながら構築されています。

上記の哲学的基盤の中でも伝統的に中核にあるのが、プラグマティズムです。

ぼく個人は現象学の系譜にある構造構成主義をイチ押しですが、作業療法士としてはプラグマティズムの重要性を強調してもし過ぎることはありません。

作業療法の哲学的基盤を土台に作業療法理論があるわけですが、それと同時に作業量法哲学も構築されています。

詳細は下記の文献にありますが、作業療法哲学には認識論、価値論、存在論があります。

存在論とは、「ある」とはどういうことかを問うことです。

つまり存在論は、作業療法士の存在の意味を問うように求めます。

具体的に言うとそれは、作業療法における人間存在の本来のありようを理解したり、ほんとうの生のあり方を考えたりすることを要請するのです。

その結果として、人間とは作業的存在であるという理路が導かれますが、これは生物学的な生存の根拠にも位置づけられる考え方です

認識論とは「知識」の意味を問います。

例えば、作業療法でもっとも重要な知識はなにか、どのような知識が作業療法を体系化するか、作業療法における本質的な知識とはなにか、などを考えることが、作業療法における認識論的営為にあたります。

その結果として、作業療法士にとって作業の知識が極めて重要であるという話になるわけです。

価値論とは、「よい」とはどういうことかを問うことです。

つまり価値論では、作業療法における「よい」の意味を考究するわけです。

例えばここでは、どのような作業療法がよい作業療法といえるのか、作業療法では何がもっとも価値があるのか、どのような方法がもっとも価値があるのか、などを考えるわけです。

当然、クライエントの作業機能障害を改善し、健康と幸福に資する作業療法がよい作業療法であるということになります。

存在論・認識論・価値論は作業療法を根底から考えるための枠組みで、それぞれの問いはしっかりつながっています。

作業療法を哲学的に考える手がかりになるので、ぜひ一度しっかり考えてみるとよいでしょう。

まぁこの辺の詳細はらいすた資料でどうぞです。
https://note.mu/kyougoku/m/m905dee840ced

作業療法理論に共通する原則

現代の作業療法の共通法則は以下の文献に詳しいです。

ここではそのエッセンスを紹介します。

クライエント中心の実践

クライエント中心の実践とは、クライエントと作業療法士が作業療法のプロセスで協働するという意味です。

作業療法の人間観では、クライエントとは重要な日々の活動を達成しようとしている存在であると位置づけています。

また作業療法士には、それが困難な人たちと協力しながら意味のある作業の達成を支援する役割があります。

この役割を果たすために、作業療法士はクライエントの世界観を理解する必要があります。

その方法として、クライエントの過去、現在のナラティブを理解することがあります。
そして、クライエントと作業療法士は、意味ある作業を通して未来のナラティブの理解と創造に取り組んでいきます。

クライエント中心の実践は、クライエントと作業療法士が協働で作業の再構築を行い、満
足できる未来を作りあげることだ、と理解できます。

作業中心の実践

作業中心の実践とは、クライエントによって選択された意味のある作業を、馴染みのある環境のもとで遂行できるようにすることです。

作業とは単なる活動ではなく、クライエントが地域、家族、友人とつながり、基本的なニーズを満たす日々の生活を意味しています。

作業中心の実践では、作業への参加を重視しています。

理由は、作業への参加がクライエントのアイデンティティの中心であり、作業を通して自分自身を再構築し、自らの健康とwell-beingの向上に影響を与えることができるからです。

なので、作業中心の実践では、クライエントの作業と優先順位の評価が不可欠です。

作業療法の目標は、クライエントの作業に対する関心に直接関係しています。

また介入方法はクライエントが意味を見出した作業を活かしたものになります。

作業中心の実践は、すべての人間が意味のある作業に参加する権利があるという考え方と深く関わっています。

エビデンスに根ざした実践

エビデンスに根ざした実践とは、最新で最良のエビデンスとクライエントの価値観、作業療法士の専門判断を統合しながら作業療法を行うことです。

エビデンスに根ざした実践を行うためには、作業療法士は臨床上の疑問に関連するエビデンスを収集し、批判的吟味する必要があります。

次に、作業療法士は、エビデンスによって推奨される作業療法を、目の前にいるクライエントに活かしていく技術が求められます。

また、作業療法士はクライエントと協働しなければならないので、質の高いエビデンスを使ってクライエントが意志決定できるように、適切にコミュニケーションしなければなりません。

エビデンスに根ざした作業療法で使える資源には、以下のようなものがありますので適宜活用してください。
PubMed
OTseeker
OTDBASE
* McMaster Occupational Therapy Evidence-based Practice Group

文化に適応した実践

文化に関連する実践とは、文化的、政治的、社会的な違いを考慮した作業療法を行うことです。

作業療法は、世界中に拡散しつつあります。

効果的な作業療法を行うためには、その背景にある社会的、政治的、文化的な違いに配慮する必要があります。

これは国が違うというだけでなく、同一国内でも地域によって文化が異なるので、それに適切に配慮する必要があるという意味です。

作業療法という概念が提唱されたアメリカは個人の自立を重視した文化であり、それに適応した作業療法が発展してきました。

しかし、世界に目を向けると、個人の自立よりも人間関係を重視する文化があり、自立を重視した作業療法をそのまま適応することはできません。

作業療法士は、クライエントと作業療法が文化に埋め込まれた存在であるとしっかり理解し、作業療法が実行される文化に適応した実践を行うべきです。

効果的な作業療法は、クライエントの文化にしっかり適さないと実施できません。

作業療法理論における作業、健康、安寧の捉え方

さて、そもそも作業療法とは、作業を通して健康と安寧(well-being)を改善することです。

人間の作業と健康と安寧は、なかなか複雑な現象ですが、以下の文献ではかなり明確に論じられています。

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なので、作業というパラメータのみでコントロールできるものではありません。

しかし、作業がそれらに影響を与えていることは、いろんな先行研究からけっこうな確度で言えます。

健康とは、世界保健機構の定義によると、身体的、精神的、社会的に良好な状態です。

他方、安寧(well-being)とは、身体的、精神的、社会的な状態に満足している程度です。

作業は身体的、精神的、社会的な健康と安寧に良い意味でも悪い意味でも影響を与えるわけです。

身体的な健康と安寧に対しては、適切にコントロールされた意味を感じる運動、疲れがとれる程度にしっかりした睡眠、バランスの良い生活などの作業がポジティブな影響を与えています。

精神的な健康と安寧に対しては、意味を見いだせる活動、ニーズと能力がしっかりつながっている状態、社会的に承認される活動などの作業が肯定的な影響を与えています。

社会的な健康と安寧については、社会的なつながりのある活動、共通の目的のもとで行う活動、作業にサポ—ティブな環境などがあると作業がプラスの影響を発揮するわけです。

作業中心の作業療法理論

作業療法理論と一言で表しても、以下のようにいろいろあります。

  • 人間作業モデル
  • 作業遂行と結び付きのカナダモデル
  • 作業療法介入プロセスモデル
  • 人・環境・作業モデル
  • 川モデル
  • 作業に根ざした実践2.0

他にも生活行為向上マネジメント、CO-OPアプローチ、IOTモデル、VdTMoCA、認知作業療法、作業遂行生態学モデル、山根モデル、CI療法、感覚統合療法などいろいろあります。

学にまで広げれば作業科学も含まれます。

ぼくの理解では、これらの共通点は作業にしっかり引き寄せて考えるというところにあります。

つまり、最大公約数的に言っちゃえば、作業中心の理論という点では同じです。

だけども、そのモチーフや理論構造はそれぞれたいへん独創的です。

色んな理論がある理由は、作業や作業療法は多様で複雑なので、立ち位置によっていろんな理論が成立する余地があるからです。

作業療法士はこれらすべての理論に精通する必要はないですが、基本的な考え方は理解しておく必要があります。

作業療法理論の概要

ここでは、以下の理論の概要を説明します。

  • 人間作業モデル
  • 作業遂行と結び付きのカナダモデル
  • 作業に根ざした実践2.0
  • 作業的公正の枠組み
  • クライエント中心の戦略枠組み

極々簡単に解説するので、詳細は成書にあたってください。

人間作業モデル

人間作業モデル(model of human occupation)は、人間の作業を理解、制御するために、意志、習慣化、遂行能力、環境という4つの基本概念を設定しています。

その他にも作業参加、作業遂行、作業技能、作業有能性、作業同一性、作業適応などさまざまな概念がありますけども、上記の4つの概念の理解が最も重要です。

意志とは作業に対する動機であり、個人的原因帰属、興味、価値から構成されます。

個人的原因帰属とは、作業を適切にコントロールできる感覚であり、自己有能感、自己制御などの要素が関与しています。

興味とは作業に対する楽しみや満足感であり、価値とは作業に関連する目標、重要性です。

つまり、人間作業モデルにおいて、人間は上手くできたり、楽しかったり、大切だったりする作業に動機づけられる、と理解するわけです。

習慣化は日々の生活パターンであり、役割と習慣から構成されます。

役割とは、時間と場所を手に入れるものであり、個人的・社会的な立場にもつながるものです。

習慣とは、半自動的に行っていることであり、普段の生活を構成しているものです。

遂行能力は客観的側面と主観的側面があり、客観的側面には身体機能・精神機能・発達機能が含まれます。

主観的側面は生きられた身体という哲学概念が組みこまれており、個人的な経験を内側から理解する必要性を示しています。

環境は物理的環境・社会的環境・作業的環境という3次元、直接的文脈・局所的文脈・大局的文脈という3レベルで構成されています。

人間作業モデルの成書は以下です(最新版は現在翻訳中)。

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作業遂行と結び付きのカナダモデル

作業遂行と結び付きのカナダモデル(Canadian Model of Occupational Performance and Engagement、CMOP-E)もまた、人間の作業を理解、制御することが目的です。

カナダモデルと銘打ってますけども、様々な国で活用されている理論です。

基本概念として、①人間(スピリチュアリティ、認知、情緒、身体)、②作業(セルフケア、生産活動、レジャー)、③環境(文化的、制度的、物理的、社会的)があります。

この理論の特徴は人間・作業・環境の流動的で相互交流的な関係として作業遂行と結び付き(engagement)を強調しているところにあります。

作業遂行とは、ある特定の作業を行うことです。

例えば、「カレーを作る」であれば、それを達成するために必要な工程を最初から最後までやる、ことが含まれます。

結び付きは作業遂行よりも広い意味であり、実際に何かすること以外にも、その人の生活や人生に必要な作業に関わっていることを含みます。

例えば、野球選手だった人が、何らかの障害によってできなくなって、テレビで野球観戦することは、実際に作業していないけども、結び付きという状態で捉えることができます。

このように、作業遂行と結び付きのカナダモデルは作業遂行に関することだけでなく、人間と作業の関わりについて幅広い視点から捉えようとするところに特徴があります。

なお、人間の作業のengagementな側面は人間作業モデルでも捉えることができます。

なので、作業療法理論のエンドユーザーとしては使いやすい方を使えばよいと思います。

作業遂行と結び付きのカナダモデルの成書は以下です。

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作業に根ざした実践2.0(OBP2.0)

OBP2.0の特徴は、人間作業モデル、作業遂行と結び付きのカナダモデルと同様に人間の作業について深い洞察をもたらすと同時に、多職種連携のマネジメントも促進するところにあります。

作業療法士の役割は作業療法の実践と多職種連携の促進です。

OBP2.0はこの役割を全うするために体系化されたものです。

OBP2.0の主な基本概念は作業機能障害の種類、信念対立、状況、目的、方法です。

作業機能障害の種類は作業不均衡、作業剥奪、作業疎外、作業周縁化から構成されます。

作業不均衡とは、日々の経験のバランスが崩れた状態です。

作業剥奪とは、外的要因によって経験が制約された状態です。

作業疎外とは、経験に意味を見いだせなくなった状態です。

作業周縁化とは、意思決定のプロセスに参加できず、周囲から経験の意味を認められない状態です。

作業機能障害は健康と幸福を低減させる問題であり、作業療法はそのような経験を改善するアプローチに位置づけられます。

信念対立とは、疑義の余地なき確信(意味・価値・存在)に齟齬が生じるために起こる確執です。

信念対立は多職種連携を劣化させる問題であり、OBP2.0において作業療法士はその低減に取り組む必要があります。

その具体的方法は信念対立解明アプローチで行います。

これは主な基礎概念である状況、目的、方法に直結するものです。

これによると、あらゆる実践は状況と目的に応じてさまざまな方法を柔軟に活用し、その有効性は事後的に決まることになります。

OBP2.0は作業機能障害の解決も、信念対立の解明もこの視点のもとで行うことになります。

この理論の成書は現在執筆中で、研究論文は以下です。

  • 寺岡睦、京極真:作業に根ざした実践と信念対立解明アプローチを統合した「作業に根ざした実践2.0」の提案.作業療法33(3),249-258,2014

その他資料は以下です。

作業に根ざした作業療法を実践すべき理由については以下の記事で詳しく紹介しています。

あわせて読みたい
作業に根ざした作業療法を実践するべき5つの理由
作業に根ざした作業療法を実践するべき5つの理由

作業的公正の枠組み

作業的公正の枠組み(framework of occupational justice)は、あらゆる人々の日々の生活や人生における公正または不公正に対する作業的視点を提供します。

単純に言うと、作業的公正とは作業する権利が平等に担保された状態であり、作業的不公正とは作業する権利が侵害された状態です。

例えば、統合失調症があるという理由で、就労ができない状態は作業的不公正です。

もし心身に障害があってもしたいこと、する必要があることに自由にアクセスできているならば、作業的公正は担保されています。

このように、公正または不公正に対する作業的視点とは、作業へと自由に平等にアクセスできるか否かという理解をもたらします。

また、この枠組みは、文脈的要因と構造的要因の相互関係によって、いかに作業的公正が促進されたり、作業的不公正に陥ったりするのか、を示すものです。

文脈的要因は人々の個別性を表しており、年齢、性別、能力/障害、労働、人種、宗教などが含まれます。

他方、構造的要因は社会、文化、経済、政治、地域、国家、国際関係などが含まれます。

作業的公正の結果としては意味、参加、選択、バランスがもたらされるが、作業的不公正の結果としては作業不均衡、作業剥奪、作業疎外、作業周縁化に陥ることになります。

この枠組みは、精神障害領域における作業療法あるいは作業科学を念頭においたものとして示されていますが、作業的公正または作業的不公正はすべての人間に関わる問題であるため、あらゆる人々にとって作業的公正が担保された社会の構築を目指すことになっています。

主たる文献は以下です。

Townsend EA: Boundaries and bridges to adult mental health: critical occupational and capabilities perspectives of justice. Journal of Occupational Science, 19, 8-24, 2012

クライエント中心の戦略枠組み

クライエント中心の戦略枠組み(Client-centred Strategies Framework、CSF)は、作業療法士がクライエント中心の実践を実質化するための環境と文脈を創りあげる戦略を構造化したものです。

クライエント中心の実践とは、クライエントの言いなりになることではなく、クライエントと作業療法士がしっかり相談しあいながら、クライエントの生活を再建するアプローチです。

クライエント中心の実践は作業中心の実践、作業に焦点化した実践、作業に根ざした実践の重要な要素なので、それを実質化する戦略はとても重要です。

この枠組みによると、戦略には個人の内省、クライエント中心の過程、実践環境の設定、地域の組織化、政治と権利擁護があります。

個人の内省は、クライアント中心の実践に関するより深い洞察を得るために、認知的かつ感情的な経験を探索するプロセスです。

つまり、クライエントの視点から作業をしっかり把握しようということです。

クライエント中心の過程とは、クライアントと作業療法士が積極的かつ意識的にやりとりすることです。

要するに、作業療法士はクライエントと意見を交換しましょうねということです。

実践環境の設定は、クライアント中心の実践を促進する実践的な環境を作り出すことであり、作業療法が行われる組織的、物理的環境が含まれます。

クライエント中心の実践を促進する職場づくりやんなきゃ駄目よってことです。

地域の組織化は、地域でクライアント中心の実践に関する問題に取り組めるようにすることで、これは専門的に行うか、または草の根運動的に推進することができます。

クライエントの中心の実践は病院・施設内だけで完結せず、クライエントが実際に暮らす地域も巻き込みましょうってことですね。

政治と権利擁護は、クライアント中心の実践がクライアントとセラピストの関係だけでなく、政治的、経済的、社会的な影響を受けるため、それらについても働きかけていく必要があるということです。

作業療法士は作業療法のモチーフを実質化するために、社会運動的なこともやらんとアカンでってことです。

クライエント中心の実践は複雑で多様であり、その実践を実質化するためにはクライエントの作業を掘りさげたり、クライエントと作業療法士の協働を促進するだけでなく、広範囲なシステムへのアプローチも必要です。

主たる文献は以下です。

Restall G, Ripat J, Stern M: A framework of strategies for client-centred practice. Canadian Journal of Occupational Therapy, 70, 103-112, 2003

道具主義的作業療法モデル

道具主義的作業療法モデル(Instrumentalism in occupational therapy model, IOT)はデューイの道具主義を基盤にした作業療法理論です。

これはIOTモデルとMIOTモデルがあり、それぞれ主たる文献が違います。

IOTモデルの文献は以下です。

  • Ikiugu, M. N. (2004). Instrumentalism in occupational therapy: An argument for a pragmatic conceptual model of practice. International Journal of Psychosocial Rehabilitation, 8, 109-117.
  • Ikiugu, M. N. (2004). Instrumentalism in occupational therapy: A theoretical core for the pragmatic conceptual model of practice. International Journal of Psychosocial Rehabilitation, 8, 151-163.
  • Ikiugu, M. N. (2004). Instrumentalism in occupational therapy: Guidelines for practice. International Journal of Psychosocial Rehabilitation, 8, 165-179.

修正版IOTモデル(MIOTモデル)もあって、それの文献例は以下です。

  • Ikiugu, M. N., Westerfield, M. A., Lien, J. M., Theisen, E. R., Cerny, S. L., & Nissen, R. M. (2015). Empowering people to change occupational behaviours to address critical global issues. Canadian Journal of Occupational Therapy.
  • Ikiugu, M. N. (2011). Influencing social challenges through occupational performance. In F. Kronenberg, N. Pollard, & D. Sakellariou (Eds.), Occupational therapies without borders: Vol. 2. Towards an ecology of occupation-based practice (pp 113–122). London, United Kingdom: Churchill Livingstone Elsevier.

IOTモデル/MIOTモデルは作業遂行による意味創造を支援するものです。

当初、IOTモデルは哲学者デューイの道具主義を基盤にしていました

その後、MIOTモデルではダイナミックシステム理論、認知行動心理学などの概念も用いた理論構造に修正されました。

これらの理論は、人間は作業的存在であり、複雑で流動的な適応システムであるという基本前提をもっており、以下のプロセスで実践します。

  • 信念の明確化
    • 精神は環境を形成するツールであり、信念は精神を賦活させる原動力であると理解し、意味のある作業へと導く信念を明確にします。
  • 行動
    • 意味のある作業の特定、作業をやり遂げるための目標の設定、その目標を達成するための作業遂行の支援を行います。
  • 評価
    • 作業遂行を継続評価し、常に目標達成に向かって調整します。
    • 作業遂行を通して意味を最適化できるように経験から学ぶ機会を提供します。

この理論の大きな特徴は、クライエントの信念(Belief)を明確にするように強調しており、それを志向性の状態を表しているととらえます。

そして、クライエントのどのような信念が作業を動機づけるのかを明らかにし、信念から生じる作業の結果を見定めてながら作業療法を提供します。

IOTモデル/MIOTモデルにはAIIIOT(Assessment and Intervention Instrument for Instrumentalism in Occupational Therapy)という評価と介入のパッケージがあります。

Doing-Being-Becomingの枠組み

Doing-Being-Becomingの枠組み(Framework of Doing-Being-Becoming)は、意味のある作業への参加を通して、作業的存在としての人間の健康と幸福を高めるための理論です。

作業的存在とは、すること(doing)によって自らの存在の在り方を規定し、将来を構築し、所属する集団を手に入れていくというものであり、作業が人間の生存と成長に不可欠であるという考え方です。

ここでいう、すること(doing)は作業(occupation)と同義です。

通常、存在する(being)から何かすること(doing)ができると考えます。

しかし、この枠組みではその発想を逆転し、すること(doing)によって存在する(being)が定義されると考えるわけです。

すること(doing)は人間存在の本質であり、料理したり、書類を作成したい、友達と遊んだり、休むために睡眠したりするなど、日々のあらゆる営みがこれに含まれます。

存在する(being)は自らの同一性に関わるものであり、それはすること(doing)によって構築されるものです。

例えば、学校に行って勉強し、友達と遊び、部活動に勤しんでいると(これらはすべてすること(doing))、それにともなって自分がどんな人間なのかを理解することができます(つまり存在する(being)が育まれる)。

また、すること(doing)によって現在だけでなく、将来の在り方(なりえること(becoming))も決まってきます。

これには、すること(doing)を通してこれから有能になること、社会的存在になることなどが含まれます。

例えば、子供は日々の課題を選択し、実行し、解釈し続けていると、その延長線でなりたい自分になることができる可能性があります。

このように、すること(doing)は自らの人間性の形成だけでなく、成長と自己実現に関わる可能性があるわけです。

そのため、作業療法士は臨床現場において、クライエントにとって意味のある作業(doing)へ参加する機会を提供していく必要があります。

主な文献は以下です。

Wilcock AA: Reflections on doing, being and becoming. Canadian Journal of Occupational Therapy, 65, 248-256, 1998

なおこの考え方はさらに発展し、すること(doing)は他の人と課題を行ったり、同じ価値観を共有しながら取り組むため、集団への所属する感覚を育むことにつながると指摘されています。

例えば、家族と一緒に旅行に行くと家庭への所属感が育まれます。

また、選手としてサッカーしていると、チームへの所属感が育まれるでしょう。

このように、作業は所属する集団を規定する働きがあるのです。

このように、より発展した理論は以下の文献に詳しいです。

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作業的自己効力感モデル

これは質的研究で作った理論です。

作業的自己効力感モデル(Model of Occupational Self Efficacy、MOOSE)は外傷性脳損傷をもつクライエントの職業復帰を支援する作業療法を構造化したものです。

この理論は医学モデルが障害をもつクライエントが社会復帰で体験する困難なプロセスに注意を払ってこなかった、という問題を踏まえて、作業療法士がクライエントの労働者役割の再構築を支援できるようにするために開発されたものです。

それによって、クライエントの不満、怒り、失望を軽減し、高い自己効力を感じられる生活の再構築を目指していきます。

作業的自己効力感モデルは、以下の4つのステージから構成されています。

  1. ステージ1:機能的能力に対する強い個人的信念(strong personal belief in functional abilities)
  2. ステージ2:自己の使用(use of self)
  3. ステージ3:作業への参加を通した有能感の生成(creation of competency through occupational engagement)
  4. ステージ4:有能な個人(capable individual)

ステージ1では、作業療法士はクライエントが自らの仕事や環境に対処する能力について洞察を深められるように内省を促進します。

ここでいう機能的能力は心身機能というよりも、作業を適切にやり遂げる能力というものです。

ステージ2では、クライエントは作業療法士の支援のもとで職業復帰に必要な選択肢を選び、介入プロセスを通して作業参加の改善し、増加させることができます。

作業療法士の役割はファシリテーターであり、クライエントは仕事、セルフケア、レジャーなど様々な作業への参加をサポートされます。

ステージ3では、クライアントは困難を感じる仕事上の課題を特定し、作業療法士は実際の環境の中でクライエントに対してそうした困難さに対処するための知識と技術の獲得を支援していきます。

クライエントはこのステージを通して、作業療法士の支援の有無にかかわらず、仕事に必要な知識と技術を向上できるようになっていくことを目指す。

ステージ4では、クライエントは可能な限り自律したかたちで労働者役割に参加し、自身を有能な労働者として感じることができるようにしていきます。

作業療法士はクライエントに対する支援の量を減らしていきま、クライエントは様々な種類の役割に参加するように動機づけられます。

主な文献は以下です。

Soeker MS: The development of the Model of Occupational Self Efficacy: An occupational therapy practice model to facilitate returning to work after a brain injury. Work, 43, 313-322, 2012

Soeker MS: The use of the Model of Occupational Self Efficacy in improving the cognitive functioning of individuals with brain injury: A pre- and post-intervention study. Work, 58, 63-72, 2017

人間・環境・作業モデル

人間・環境・作業モデル(Person-Environment-Occupation (PEO) model)は人間と環境と作業の相互作用によって生成される作業遂行に対する評価と介入を重視する理論です。

この理論は独立したものですが、Doing-Being-Becomingの枠組みと似たところがあります。

それは、Doing-Being-Becomingの枠組みと同様に、人間・環境・作業モデルが様々な作業療法理論に通底する最小限の概念で構成されている点です。

Doing-Being-Becomingの枠組みは、行うことによって存在の在り方が決まり、その延長で未来も決まるという考え方でした。

この考え方はそのまま人間作業モデルなど他の理論にも妥当する考え方です。

これと同様に、人間・環境・作業モデルも様々な作業療法理論で内在している人間、環境、作業という概念で成立しており、独立した理論であると同時に様々な理論に妥当するという特徴をもっているのです。

ただ、各概念の中身をみると、ちょっとずつ表現が異なります。

人間には健康、人格、役割、自己概念、文化的背景、身体能力、感覚能力、認知、役割などが含まれます。

環境には社会的、経済的、文化的、制度的、物理的な側面が含まれます。

作業とは自己を維持したり、表現したり、満たしたりするための活動の一群です。

この理論では人間、環境、作業が分かちがたくむつび付いており、作業遂行をダイナミックにそしてインタラクティブに構成するもので、時間経過にともなって人生を形成するものになっていく。

人間・環境・作業モデルは作業遂行が豊かになるように介入するものであり、評価は作業遂行が乏しくなっている要因を分析し、改善するために実施されます。

主な文献

Law M, Cooper BA, Strong S, Stewart D, Rigby P, Letts L: The person-environment-occupation model: A transactive approach to occupational performance. Canadian Journal of Occupational Therapy, 63, 9-23, 1996

作業療法介入プロセスモデル

作業療法介入プロセスモデル(Occupational Therapy Intervention Process Model、OTIPM)は、①真のトップダウンアプローチ、②クライエント中心の実践、③作業に根ざした実践を体現した理論です。

作業療法士はまずクライエント中心の文脈を構成するところからはじめて、面接で作業遂行上の利点と欠点を特定し、観察で作業遂行分析を行ったうえで、作業療法計画を立案します。

作業遂行に焦点化した面接から、実際の作業遂行の観察へとつなげることによって、作業で評価し、作業で介入するという軸をぶらすことなく実行できるようになるわけです。

これは作業療法介入プロセスモデルの大きな特徴です。

次に、作業療法士はクライエントの作業遂行上の問題を解決するために①代償モデル、②教育モデル、③習得モデル、④回復モデルといった介入法を選択します。

代償モデルでは、作業遂行技能の問題点を代償する適応的な作業を行うものです。

教育モデルは、作業遂行に焦点化した学習を促すアプローチです。

習得モデルは、作業遂行技能の習得と発達を促すものです。

回復モデルは心身機能と個人因子の回復と発達のためにアプローチするものです。

これらの介入の成果は作業遂行の満足度の改善や作業遂行技能の向上によって明らかにします。

このように、作業療法介入プロセスモデルは評価→介入→再評価の全過程を通して作業で評価し、作業で介入するという手続きを実質化したものになります。

主な文献は以下です。

Fisher AG: Uniting practice and theory in an occupational framework. American Journal of Occupational Therapy, 52, 509-521, 1998

作業的スピンオフモデル

作業的スピンオフモデル(Model of Occupational Spin-Off)は、作業的自己効力感モデルと同じく、質的研究によって構築された理論である。

作業的自己効力感モデルは外傷性脳損傷をもつクライエントの職業復帰を支援する理論でしたが、こちらは手段としての作業を通して精神的健康を改善するところに特徴があります。

日本で紹介されている作業療法理論はメタ理論が中心です。

けども、海外ではちょくちょく質的研究による特定の領域に特化した作業中心の理論が生まれています。

日本で生まれた独自の作業療法理論である川モデル(Kawa model)も質的研究で開発しています。

特定のテーマにそった作業中心の理論を開発する必要性はまだまだあるでしょーね。

さて、作業的スピンオフという聞きなれない概念は、作業への取り組み(occupational engagement)を通して、クライエントが主観的な幸福と自己実現を経験できる状態を意味しています。

作業的スピンオフを経験していると、クライエントは良好な精神的健康を維持するために、積極的に作業を見いだし、取り組むように動機づけられた状態になります。

それによって、クライエントはさらに作業への取り組みに専念するので、より精神的健康が改善される良循環にはまる事象を捉えているわけです。

作業的スピンオフは、次に述べる4つのプロセスによって達成されます。

最初のプロセスは、社会的環境における肯定です。

ここでいう肯定とは、クライエントが社会的環境によってbeing、becoming、belongingの感覚を保証されるときに見いだされる感覚です。

上記でDoing-Being-Becomingの枠組みを紹介しましたが、作業的スピンオフモデルの中にその考え方が組みこまれています。

第2のプロセスは社会的環境における有能性の確認であり、作業を選択し、積極的に取り組むことで、作業が熟達していき、有能観を感じることができる状態です。

第3のプロセスは作業を達成することで価値があり有能で生産的であるという自信の現実化、第4のプロセスはそうした作業の取り組みの継続による肯定的な未来の予見を意味しています。

つまり、作業的スピンオフモデルは、クライエントが社会的環境の中で作業を通して、being、becoming、belongingに対する肯定感を育み、作業への取り組みを通して有能感を確認し、作業を通して肯定された自身を現実化し、未来に対する肯定的な期待を獲得する、という過程を明らかにした理論であると言えるでしょう。

主な文献は以下です。

Rebeiro KL, Cook JV: Opportunity, not prescription: An exploratory study of the experience of occupational engagement. Canadian Journal of Occupational Therapy, 66, 176-187, 1999

まとめ:作業療法理論のweb教科書

本記事は「作業療法理論について手軽に学びたい」という希望にお答えするために作成しました。

作業療法は哲学を始発点にもつアプローチですから、作業療法は理論を理解することが、具体的なアプローチに直につながります。

作業療法によって人類に貢献したい人は、作業療法を勉強するようにしましょう。

なお、作業科学初心者入門コースの無料オンラインコースについて以下の記事で紹介しています。

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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