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質的研究の対象者の人数の決め方【インタビューでも観察でもOK】

京極真
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本記事では「質的研究でインタビューを行いますが、サンプルサイズは大きい方がいいですか?」という疑問にお答えします。

こんな方におすすめ
  • 質的研究のサンプルサイズの決め方がわからない
  • 具体的な決め方を知りたい

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質的研究の対象者の人数の決め方

質的研究のサンプルサイズは目的、哲学、研究デザイン、哲学などによって変わってきます。

目的

質的研究の目的は、例えば以下のようなパターンに整理できます。

目的
  • 希な経験の本質を明らかにしたい
  • 多様性を包括する経験の本質を明らかにしたい
  • 多様性な経験の本質を明らかにしたい など

希な経験または個別経験の本質を明らかにしたい

例えば、「イチローがバッターボックスにたったときに、何を考えたり、感じたりしているのかを明らかにしたい」という目的をもったとしましょう。

イチローは世界で1名しかいないし、同様の経験をした人もいません。

これは極端な例ですけども、こういう個別性のある経験を深く掘りさげたい場合、サンプルサイズは1でもよいです。

ただし、人間は1名なんですけども、実施したインタビューや観察の回数をサンプルサイズにカウントし、結果の確からしさを高めるなどの工夫を行います。

多様性を包括する経験の本質を明らかにしたい

例えば、「病院から地域へと移行する統合失調証をもつ方を対象に、そのプロセスで共通して体験する社会参加の促進要因と阻害要因を明らかにしたい」という目的をもったとしましょう。

この場合、いろんなプロセスから共通パターンを見いだす必要がありますから、データ分析しても新しい概念がでてこなくなるまで、サンプルサイズを大きくしていく必要があります。

つまり、理論的飽和に達するまでサンプルを増やす必要があるのです。

後で述べますが、この場合、質的研究のサンプルサイズは大きすぎても駄目、小さすぎても駄目なので、その都度目的を達成できたかどうかを見定めながら決めることになります。

多様性な経験の本質を明らかにしたい

例えば、「脳血管障害をもつ方を対象に、社会参加に至るまでのパターンを明らかにしたい」という目的をもったとします。

その場合、さまざまな適応のパターンを生成する必要がありますので、データ分析の結果を手がかりに複数のパターンに落ちつくまで、サンプル数を大きくしていくことになります。

さまざまなパターンを確定するまで選択的にサンプリングしていくわけです。

これも上記と同様に、質的研究のサンプルサイズは大きすぎても駄目、小さすぎても駄目なので、その都度目的を達成できたかどうかを見定めながら決めることになります。

研究デザイン

研究デザインによるサンプルサイズは色々な目安が示されています。

例えば、「質的研究をめぐる10のキークエッション」ではMorseを引用しながら以下の推奨数を示しています。

研究デザイン別のサンプルサイズの目安

  • 現象学的研究:6名程度
  • エスノグラフィー、グラウンデッド・セオリー:約30〜50名程度
  • 質的動物行動学的研究:100〜200ユニット

(参考:質的研究をめぐる10のキークエッション

また「TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開」では以下のように経験則からサンプルサイズと利点を整理しています。

TEMは複線経路等至性モデルで、複線経路等至性アプローチ(TEA)の中核的方法です。これは人生の経路を明らかにするための質的研究法です。

研究デザイン別のサンプルサイズの目安

  • 1名:個人の経験を深く探求できる
  • 4±1名:経験の多様性を探究できる
  • 9±2名:経験の類型を探求できる

(参考:TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開

このように、質的研究は研究デザインによって必要なサンプルサイズは変わるという考え方があるのです。

哲学

質的研究と一言であらわしても、その背後にある哲学は多種多様であり、そのため個別の質的研究法にもいろいろなものがあります。

単純に言うと実証主義的な質的研究はサンプルサイズが大きく、解釈学的な質的研究はサンプルサイズが小さい傾向にあります(参考:質的研究とは何か)。

実証主義は観察事実の積み重ねから相対的な一般法則を明らかにできるという哲学です。

そのため、それに親和性のある質的研究はサンプルサイズを大きくしていくことになります。

他方、平たく言えば、解釈学は経験から意味の本質を深く取り出すことができるという哲学です。

したがって、解釈学に親和性のある質的研究は個別の事例を深く掘りさげて、共通了解可能な意味を抽出していくことになります。

このように、質的研究でサンプルサイズを決めるときは、自身がどのような哲学を前提に質的研究を行うのかによって、そのさじ加減が変わってくるのです。

なお、質的研究の哲学は以下の文献が圧倒的に詳しいですので、ぜひお読みください。

質的研究の対象者の人数の決め方の留意点

量的研究は統計学を武器にし、それは大数の法則にしたがっているので、理論的にはサンプルサイズが無限大になれば手元にあるデータと母集団における真値が一致します。

だから、量的研究のサンプルサイズは小さいよりも大きい方がいいです。

他方、質的研究は目的、研究デザイン、哲学などに対してサンプルサイズを相対的に決める必要があるのです。

つまり、質的研究のサンプルサイズは目的、研究デザイン、哲学などに対して大きすぎても駄目小さすぎても駄目と考えるのです。

質的研究において、サンプルサイズが大きすぎる弊害は、質的研究の「個性を科学する」という目的を達成できないことにあります。

他方、目的などに対してサンプルサイズが小さすぎる問題は、研究の生命線である新規性や再現可能性を何も見いだせないおそれがあることなどに求められます。

質的研究でサンプルサイズを決めるときは大きすぎても駄目小さすぎても駄目という視点を忘れないようにしましょう。

質的研究の対象者の人数の決め方を考えるための文献リスト

質的研究のサンプルサイズの決め方をさらに検討したい人は手始めに以下の文献を読むと良いです。

まとめ:質的研究の対象者の人数の決め方

本記事では「質的研究でインタビューを行いますが、サンプルサイズは大きい方がいいですか?」という疑問にお答えしました。

質的研究ではサンプルサイズの決め方に決定打となる基準がなく、目的別、研究デザイン別哲学別にあれこれ試行錯誤しながら決めていきます。

そのさじ加減は、初心者には難しいので、最初はメンターについて実施するのがよいです。

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著者紹介
京極 真
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『作業療法リーズニングの教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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