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無料統計ソフトおすすめ5選|よい道具を選べば、よい研究ができるのか

2018.07.06
探求から考える

「無料で使える統計ソフトなら、どれがおすすめですか」

研究に取り組む学生や大学院生から、ときどき聞かれる質問です。

おそらく質問している人は、できるだけ簡単に使えて、必要な統計解析ができて、お金もかからないソフトを知りたいのだと思います。

それはよくわかる。

統計解析は、ただでさえ難しく感じやすいです。平均値、標準偏差、p値、信頼区間、効果量、多変量解析、、、聞き慣れない言葉が次々に出てくるうえに、統計ソフトの操作まで覚えなければならない。できれば、余計な苦労は減らしたい。

ただね。「どの統計ソフトがおすすめか」と考える前に、もう少し手前で考えておいたほうがよいことがあります。

そもそも、統計ソフトをおすすめするとは、どういうことなのでしょうか。

おすすめは、道具だけでは決まらない

統計ソフトは、研究を進めるための方法です。方法とは、目的を達成するためのツールである。

私は、長らくそのように考えてきました。

包丁は料理を作るために使います。自転車は移動するために使う。統計ソフトは、データを分析し、研究上の問いを検討するために使います。

どれほど高性能な包丁でも、料理の目的に合っていなければ役に立ちません。ロードバイクは速く走れますが、大量の荷物を運ぶなら軽トラックの方が便利です。

道具の価値は、道具だけでは決まらない。何を実現したいのか。どのような状況で使うのか。誰が使うのか。それらとの関係によって、役に立つ道具は変わります。

統計ソフトも同じです。

「最も優れた統計ソフト」が、どこかに単独で存在しているわけではありません。研究の目的や使う人の経験によって、おすすめは変わる。

それでも、多くの研究者にすすめやすい統計ソフトには、ある程度共通した条件があるように思います。

私が重視しているのは、次の3つです。
負担が少ないこと。
繰り返し使えること。
そして、分析の過程を確認し、信頼できる結果につなげやすいこと。

研究は一度だけ行うものではありません。卒業研究が終われば、大学院で研究するかもしれない。就職した後に臨床研究を行うこともある。所属する大学や病院が変わる可能性もあります。

そのたびに高額なライセンスを購入しなければ使えないソフトは、人によっては大きな負担になります。

無料の統計ソフトには、単にお金がかからないという以上の意味がある。所属する組織が変わっても使い続けられる。大学を卒業しても、自宅で研究を続けられる。研究の方法を、組織の予算や契約に縛られず、自分の手元に置いておける。

これは、研究を続ける人にとって、小さいようでかなり大きなアドバンテージではないかと思っています。

私がおすすめする無料統計ソフトは5つある

現在、無料で使える統計ソフトはたくさんあります。

その中で、私が研究や教育の経験を踏まえておすすめするなら、jamovi、JASP、HAD、EZR、Rの5つです。

どれかひとつだけが正解というわけではありません。それぞれに得意なことがあり、向いている人も少し違います。

jamovi

統計ソフトを初めて使うなら、私はjamoviを有力な選択肢として考えます。実際、学部生や大学院生にはjamoviを第1選択肢としておすすめしています。

jamoviは、表計算ソフトに近い画面でデータを扱い、メニューを選びながら統計解析を行える無料のオープンソースソフトです。内部ではRが利用されており、追加モジュールによって機能を拡張できます。

画面は比較的すっきりしています。データを読み込み、分析方法を選び、変数を指定すると、結果がすぐに表示される。設定を変更すれば、解析結果もその場で変わります。

この「操作したことと、出力された結果の関係が見えやすい」という特徴は、統計学を学び始めた人にとってかなり助けになります。

t検定、分散分析、相関分析、回帰分析など、研究でよく使う基本的な解析にも対応しています。

何より、「統計ソフトを動かす」というところで消耗しにくい。統計解析を学びたいのに、インストールやコマンド入力で力尽きてしまったら、少しもったいないです。

もちろん、操作が簡単だから、統計学も簡単になるわけではありません。画面上で変数を移動すれば分析はできます。しかし、なぜその分析を使うのか、前提条件は満たされているのか、結果をどう解釈するのかは、別に考える必要があります。

それでも、最初の壁を低くするという意味で、jamoviはよくできています。「何から始めたらよいかわからない」という人なら、まず試してよいソフトだと思います。

>>jamovi公式サイト

JASP

JASPも、無料で使えるオープンソースの統計ソフトです。

直感的に操作できる画面を備えており、一般的な頻度論統計だけでなく、ベイズ統計を扱いやすいところに特徴があります。

統計学では、長らくp値を用いた仮説検定が広く使われてきました。もちろん、それ自体が悪いわけではありません。

ただ、研究上の問いによっては、「帰無仮説を棄却できるか」だけでなく、複数の仮説のうち、データがどちらをどの程度支持しているかを考えたいことがあります。

JASPは、そうしたベイズ統計への入口を開いてくれます。そして、頻度論とベイズ統計を別世界のものとして扱うのではなく、同じデータを異なる考え方から眺めることができる。これは、統計学を単なる計算技術ではなく、データから何をどのように推論するかという問題として学ぶうえでも面白いところです。

また、JASPでは、データ、分析内容、注釈などを独自形式のファイルにまとめて保存できます。分析過程を後から確認しやすく、他者と共有しやすい設計になっています。

研究では、結果だけが残っていても困ることがあります。どの変数を使ったのか。どのオプションを選んだのか。欠損値をどう扱ったのか。数か月後に自分で見直したとき、「私はいったい何をしたのだろう、、、」となることは、案外あります。JASPは、そのような問題を減らしやすい。

ベイズ統計に関心がある人や、解析の記録を残しながら研究したい人にとって、有力な選択肢です。

>>JASP公式サイト

HAD

HADは、清水裕士先生が開発している無料の統計分析プログラムです。

Microsoft Excel上で動作し、記述統計や統計的検定だけでなく、分散分析、回帰分析、一般化線形モデル、因子分析、構造方程式モデル、階層線形モデルなど、多様な分析に対応しています。

HADのよいところは、Excelに慣れている人が入りやすいところです。多くの研究者は、日頃からExcelでデータを入力し、整理しています。まったく新しい操作環境を覚えるよりも、見慣れた表の上で分析できる方が安心する人もいるでしょう。

また、日本語のメニューや資料が充実しており、心理学、教育学、社会科学などで使われる多様な統計解析を行えるところも強みです。

かなり高度な分析まで実装されているので、「Excelで動く簡単なソフト」と思って使い始めると、その機能の多さに驚くかもしれません。ただし、HADそのものは無料ですが、利用にはMicrosoft Excelが必要です。

つまり、「完全に何も用意せず無料で使える」という意味では、jamoviやJASPとは少し条件が違います。

それでも、すでにExcelを使っており、日本語環境で幅広い統計解析を行いたい人にとって、HADはかなり魅力的です。

>>HAD公式サイト

EZR

医療や臨床研究に取り組む人なら、EZRは有力な候補です。

EZRは、RとR Commanderをもとに開発された無料の統計ソフトで、メニュー操作によって解析できます。特に医学統計で使われる生存時間解析、ROC解析、メタ分析、必要症例数の計算などを利用しやすいように設計されています。

医療研究では、単純な平均値の比較だけでは対応できない問題がたくさんあります。ある出来事が起こるまでの時間を分析したい。診断検査の精度を検討したい。複数の研究結果を統合したい。研究に必要な対象者数を見積もりたい。
などなど。

EZRは、そのような臨床研究でよく生じる問いに対応しやすい。

しかも、日本語のメニューから操作できます。

Rを直接使うと、最初はコードの書き方を覚える必要があります。EZRは、その負担を減らしながら、Rの統計解析機能を利用できるようにしています。医師、看護師、作業療法士、理学療法士などが臨床研究を始める場合には、かなり使いやすいと思います。

ただし、「Easy R」という名前だから、医学統計そのものまで簡単になるわけではありません(当たり前ですけど)。たとえば、生存時間解析のボタンを押すことはできます。しかし、打ち切りとは何か、ハザード比をどう読むのか、比例ハザード性をどのように考えるのかは、統計ソフトとは別に理解しなければならない(これも当たり前)。

>>EZR公式サイト

R

Rは、統計解析とグラフィックスのための無料の言語・環境です。

jamovi、JASP、EZRの背景にも、Rがあります。

Rの特徴は、圧倒的な拡張性です。基本的な統計解析はもちろん、高度な統計モデル、機械学習、データ処理、グラフ作成、自動化など、多様なことができます。新しい統計手法が開発されると、それを利用するためのパッケージが公開されることも多い。研究上の問いが複雑になっても、長く使い続けられる可能性があります。

また、Rでは分析手順をコードとして残せます。どのデータを読み込んだのか。どの変数を作ったのか。どの統計モデルを使ったのか。どのような図を作成したのか。それらを記録し、再実行できます。研究の再現性を考えるなら、これは大きな強みです。

ただし、Rには学習コストがあります。最初は、エラーが出ます。私もそれで何度も苦労しました。しかも、エラーメッセージを読んでも、何を言っているのかよくわからない。括弧がひとつ足りない。変数名が違う。パッケージが入っていない。ただグラフを描きたいだけなのに、なぜこんなに苦労するのか、、、と思うこともあります。それでも、少しずつ使えるようになると、自分の研究に合わせて分析環境を組み立てられるようになります。

研究を長く続けたい。再現可能な研究を重視したい。既存のメニューにない分析も行いたい。そのような人なら、Rを学ぶ価値はかなり高いです。

ただし、研究の目的をjamoviで十分に達成できるなら、無理にRを使う必要はないです。方法は目的のためにある。目的が方法のためにあるのではありません。

>>R公式サイト

>>Rstudio公式サイト

結局、どれを選べばよいのか

どうしても迷うなら、私は次のように考えます。

統計解析を初めて学ぶなら、jamovi

頻度論とベイズ統計の両方を扱いたいなら、JASP

Excelに慣れており、日本語環境で多様な分析を行いたいなら、HAD

医療・保健領域の臨床研究なら、EZR

長期的に研究を続け、自由度や再現性を高めたいなら、R

もちろん、これは絶対的な分類ではありません。

jamoviでも高度な分析はできます。

JASPはベイズ統計だけのソフトではありません。

HADは心理学だけに使うものではない。

EZRも医学研究以外で利用できます。

Rを初めての統計ソフトに選んでもよい。

境界はそれほど明確ではありませんので、目的や経験が変われば、使うソフトを変えてもよいし、複数を組み合わせてもよい。道具は、一度選んだら一生それだけを使わなければならないものではありません。

無料だから、負担がないわけではない

ここまで無料統計ソフトを紹介してきました。ただ、「無料」という言葉には少し注意が必要です。

利用料金がかからなくても、学ぶ時間は必要です。データを整理する時間もかかる。統計学を理解するために、本や論文を読む必要もあります。エラーの原因を探し続けて、気づけば数時間たっていることもある。

お金がかからないことと、何の負担もないことは違います。

そして、無料統計ソフトを使えば、自動的に信頼できる研究結果が得られるわけでもありません。どれほど優れた統計ソフトでも、入力されたデータに誤りがあれば、誤ったデータを正確に計算します。変数の設定を間違えても、その設定にしたがって結果を出します。研究目的に合わない統計モデルを選んでも、何らかの数字は表示される。

統計ソフトは、ときどき恐ろしいほど従順です。使う人が何を意図しているかまでは考えず、与えられた条件で計算を続けます。だから、結果が表示されたという事実だけでは、その分析が妥当であるとは言えません。

道具は、使い手を超えてくれるのか

近年は、生成AIを使って統計解析を学ぶこともできます。統計用語を説明してもらう。Rのコードを作成してもらう。エラーの原因を調べてもらう。分析結果の読み方を相談する。以前なら何時間も調べなければならなかったことが、かなり短い時間で理解できる場合があります。

これは本当に便利です。私自身、AIによって、人間の能力は部分的に底上げされると思っています。

ただ、それでも最後に残る問題があります。この研究では、何を明らかにしたいのか。集めたデータは、その問いに対応しているのか。この統計モデルを使う理由は何か。出力された結果から、どこまで言えるのか。どこから先は言いすぎなのか。最終的には、人間が判断しなければなりません。

AIがもっと発展すれば、多くの分析は自動化されるかもしれない。データを渡せば、適切な統計モデルを提案し、分析し、グラフを作り、論文の文章まで書くようになる可能性もあります。

けれども、研究の目的まで完全に外部へ委ねてしまったら、私たちは何を研究しているのでしょうか。

統計ソフトもAIも、人間の能力を拡張する道具です。しかし、道具ができることと、使い手が理解していることは同じではない。高性能な道具を持つことと、よい研究ができることも同じではありません。

たとえば、データ入力で数多くの間違いをしていたり、出力された結果を適切に読み解けなかったりすれば、どれほど優れた統計ソフトを使っても、宝の持ち腐れです。

結局のところ、便利な道具を使っても、自分が判断できる範囲を大きく超えることは難しい。

だから、無料統計ソフトを使うなら、ソフトの操作だけでなく、自分自身の研究能力も少しずつ育てた方がよい。統計学を学ぶ。研究方法論を学ぶ。自分のデータを疑う。分析結果を読み直す。他者が同じ分析をたどれるように記録を残す。アカデミックライティングの技術を鍛える。どれも面倒です。

でも、研究はたぶん、その面倒なところにあります。

どの無料統計ソフトがおすすめなのか。

その問いから始めてもよいと思います。

ただ、使い続けているうちに、問いは少し変わるかもしれません。

私は何を知りたいのか。なぜ、それを知りたいのか。この方法で、本当にその問いに近づけるのか。

無料統計ソフトは、研究を始めるための道具を、誰にでも開いてくれます。

けれども、その道具を使って何を明らかにするのかは、まだ人間の側に残されています。

Ph.D., OT

Thriver Project代表。吉備国際大学・教授。思想ノートでは、信念対立、作業療法、研究等を手がかりに、分かり合えない世界で人間・社会・自由についてどう考えるかを書いていきます。

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